第29話

 良く言えば善人の彼等は、この国で廃れゆく性善説の体現者でもある。彼等が客に対して百パーセントの信用を置く様に、客もまた、社員へ絶対的な信頼を寄せる。理由は簡単で、客が話した事は事実であるという前提のもとに接してくれるから。


 偶々一人の客が大嘘吐きだったとして疑いの目を向けてしまっても、客がそうと気付かなければそれは客にとって百パーセントのまま。疑いの目を向ければそれもまた、担当者が退職まで背負う爆弾となる。


 玄凪は爆風に巻き込まれるだけでは飽き足らず、遂に自ら爆弾を背負ってしまった。


玄「それじゃあ一旦今日までってことにしておきましょう。もし何かあったら警察とか私達に相談して下さいね」


逢「はーい。どもったー」


 護身用にスタンガンを購入し鞄に忍ばせてから、逢は出歩く際に複数人で闊歩しているかの様な無敵感を味わっていた。


 正面を見て歩くのと同じくらいの時間、辺りを見回して歩いていたそれまでの自分が挙動不審に思えて、もっと早く来れば良かったとの多少の後悔が彼女に浮かぶ。


 前庭の碧さを堪能する余裕も無かった自身の残影をタニシに、アイドルとなった未来の自身を錦鯉に重ねて、彼女は優雅に泳ぐ錦鯉の姿を心に焼き付けた。


 一方、突然の仕事も何とか無事に終えた玄凪。今もミーたんを推していたら連絡先を聞くくらいはしていただろう。龍五から個人的な関係に進展はあったかと問われて、連絡先を交換しなかった後悔を自ら吐露していた程だ。


 推しを乗り換えて今はなーのん一筋としている玄凪だが、好きなメイドの連絡先を知る千載一遇のチャンスを逃して、特別になり損ねた事を引き摺った。


 餌を横取りされた魚はあっという間にそんな事を忘れて、新たな餌に飛び付くというのに。


社長「Who do you admire more, those who set a due date 50 years from now or those who plan until then?」

(五十年後を期日とした人と期日までの計画を立てた人、あなたはどちらを賞賛しますか?)


大手芸能事務所社長A「――It is impossible for humans to predict the future 200 years into the future,Aslan.The future can be created by those living at that time as much as they want,but at the same time it is an asset that anyone can sell」

(――二百年先の未来を予測することは、人には不可能なのだよ、アスラン。未来はその時代に生きている者がいくらでも創り出せるが、同時に誰でも売ることのできる財産でもある)


 たらふく餌を食べた魚達は、天から降ってくる餌に見向きもせず水槽を泳ぎ回る。


社長A「We are part of the plan,and someone else's future」

(私達は計画の一部であり、誰かの未来でもあるのだ)

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