第25話

 泣き止まない少年をマリンが抱き抱え、迷子センターへと歩き出した、まさにその時だった。まるでタイミングを見計らっていたかの様に我が子を探す母親が近づいてきた。その女性に自らを呼ばれていると気付いた少年は、今度は安堵に泣き暮れる。


 真九は思い掛けず良い事をした気分になり、されど浸らずにその場を去ろうとマリンへ促した。


少年の母親「逃げないで!」


 その一言で真九は、これから起ころうとしている厄介ごとの全てを察した。


少年の母親「この人達誘拐犯です!!」


真「好き勝手言ってくれるな……(呟き」


 周囲の視線が彼等へと集まる中、既に足を止めカメラを向ける野次馬の姿も。あからさまに彼等の周りを取り囲む様な等間隔でいるのは、標的を逃がさないため。


 真九が即座にとった行動は通話アプリでの連絡。と言っても真九等には頼れる親がいない為、英彦星へ状況と弁護士事務所の連絡先を簡潔に伝えた。


 書き終えるや否や早々と警官が駆け付けて、携帯電話の使用を制止される。警官の姿に唯ならぬ気配を感じ取ってか、野次馬は続々と増えていく。


 真九達がこの状況から解放される術は一つ。免罪を訴え相手を論破し、野次馬を味方につける他無い。警察署まで付いて行く気など微塵も無い二人は、まずは当人同士での決着を試みる。


 ニュース番組で報じられた件は疑われた人物がその場から逃走を図った挙句、野次馬として潜んでいた共謀者を突き飛ばしてしまった為に逮捕されていた。つまり警官が活躍する場を自らお膳立てした形となる。


 母親達からするとそれが最も円滑なシナリオだ。疑われた者が周囲の圧力に負けて逃げ出したところで共謀者が取り押さえに掛かり、その際の被暴力を訴えて現行犯で捕まえてもらう。


 後は警官が賄賂と引き換えにその罪を揉み消す条件をちらつかせれば、大半の場合賄賂が支払われて彼等は金を、逮捕された者は事なきを得る。


 仮に逃げなかったとしても頻りに要求される謝罪へ応じてしまえば不利となる。警官からすれば何故謝ったのかを考えた時、まるで誘拐を意図していたかの様に映る為だ。


 疾しい事など無いのに虐げられたら逃げも謝りもせず、唯々冷静に反撃の時を待つ――それがこの国で生き残るにはとても有効な方法である。言い掛かりを付けて畳み掛ける事は出来る彼等だが、それが押し返された時に論理的な脆さを露呈する。


少年の母親「一言謝るべきよ! そうでしょ、犯罪なんだから!」


警官A「とりまお子さんにだけでも――」


真「警官様は第三者だもんな。当事者間で決着がつけばそれに越したことは無い。それとも何か、もう真実が見抜けたとでも言うのか?」

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