第18話
同時刻。この現状など露知らず社員達は各々の役職に勤しんでいた。
若手社員達が成長する様を実感して、ベテラン同士の話題もそれぞれの部署の若手の寸評となってくるこの季節。彼等の、ここまで到達する事なく退職していった新入社員に対する思い入れなど皆無に等しい。
肩入れも虚しく、いつの間にか辞めてしまった社員への行き場を失った私情は、ただ霧散するのを待つ他無いのだ。
毎年英彦星は新人の中から贔屓する男性社員を品定めする。自らが唾を付けておいた若者がキャリアを積み、やがて会社で一人前として働いている様子を遠巻きに見るのが彼の趣味でもある。
西心も新人時代に彼から素質を見抜かれた一人だ。今もこうして休憩を共にする間柄だが、二人だけでの会話は歳を重ねる毎に辛気臭さを増していた。
そんな彼等の最近の話題には必ずと言っていい程、玄凪と園恵が上がる。西心は玄凪をぼんぼん、園恵を令嬢と呼ぶが、この時代に純粋さを持ったまま成人する者が珍しい事から、育ちの良さと皮肉を込めてそう呼んでいた。
その令嬢の一報は、通話アプリを用いてチームメンバーへと伝えられた。一命を取り留めたという吉報が添えられてはいたが、それは裏を返せば命を顧みない程に追い詰められていた事を示している。
そしてこれは先輩である英彦星達チームメンバーにとって凶聞でもあった。
英「まだ目は覚めないらしいわ。(溜め息)――それにしても、結局こうなっちゃうのね」
西「あんまり後輩の事悪く言わんとってあげて下さい。自分の事言われとるみたいで気色悪いですわ」
英「そういうつもりで言ったんじゃないのよ。ただ、もっとしてあげられる事があったんじゃないか、ってね」
西「……そう思うとるんでしたら尚更ぼんぼんの面倒見てあげんと」
英彦星が後輩社員の扱いに慣れているように、西心もまた、感傷に浸る英彦星の励まし方を知っている。
新人時代から支えてきた後輩達に、近年支えられる機会が増えてきた英彦星。彼にとってはそれ自体も活力の源となり、初めて退職の意を仲間内へ溢した日から実に四年の間、まるで死に場所を求める落武者の様に会社へ勤め続けているのだった。
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