2章

けしからんポスター

 ダレンの件からしばらくが経ち、私は毎日平和に過ごしていた。


 ランさんが持って来る大量の注文書を親の仇の勢いで処理していく。錬金釜の前で魔力を貯め、杖に魔力を乗せる。錬金釜がぽわっと光り、薬を完成させる。



 ふははははははは!!!!!!


 私にかかればこんなもんよ!!!



 調子に乗っていると、バチコンと師匠に杖で叩かれる。


 痛い。


 師匠に叩かれた頭を撫で、一日を過ごし、仕事を終えアパートに帰り着いた。


 部屋に入ろうとすると、隣の部屋から人が出てきた。


 ぺこっと挨拶をして入ろうとすると、「あら、ちょうど良かった」と、綺麗な声がかかった。


 私が横を向くと、それはあの浮気男ハゲ薬を購入した綺麗なお姉さんで、


「ご機嫌いかが?私、隣に住んでるライラ・バードンと言うの。突然声を掛けてごめんなさいね。先月引っ越してきたばかりなの。良かったら、これ食べない?」と言ってオレンジが入った袋を差し出した。


「私、王立学園に勤めていて、寮の改修工事の間ここに住むの。短い間だけど宜しくね。で、学園で育てているオレンジが今年は豊作だったの。頂いて帰ったのだけど、一人じゃ量が多くって。駄目にする前にどうか食べて頂けない?」


 美人はオレンジを持っても似合うな。なんかこんなポスター見たことある。


 ライラさんがオレンジを持って果物屋の前にいたら、バカ売れすること間違いなし。


 オレンジ祭り開催決定だ。


 あ、浮気男ハゲ薬でポスター作る時、ライラさんに頼んだら色気マシマシで売れるかな。


 いや、いかん。けしからんポスターになってしまう。


 そんな事を考えてから、「この間は騒がしくてすみません。ロゼッタ・ジェーンです。頂きます」と言ってオレンジを貰った。


「ああ、良かった。では、またね」と言って、ドアは閉まった。


 本当に、私に用事だったんだ。


 私はライラさんから貰ったオレンジを明日店に持って行って、師匠とランさんと一緒に食べようと玄関に置いた。


 それからご飯の支度をしていると、シチューを作り出したところでパンを買い忘れている事に気付いた。


(しまった)


 時計を見ると、パン屋は閉まっていたが近くの商店がギリギリ開いてる時間だった。


 パン屋での売れ残りを商店が格安で置いているのだ。


(まだあればいいけど)


 私は急いで火を止め、財布を掴むと部屋を出た。


 商店に走り込み、売れ残りのパンとミルクと卵も買った。


 ふう。よかったよかった。と、アパートに戻り、部屋のカギを開けようとしていると私の背後を通り、綺麗なお姉さんの部屋をノックする人がいた。


 チラリと見るとこれまた綺麗な男の人だった。


(どこかで見たな。ま、でも、はいはい。お似合いですよ、一人者は寂しくシチューを作りますよ)


「ジェーン嬢?」私が部屋に入ろうとした所で振り向くと、綺麗なお姉さんの彼氏(仮)から声が掛かった。


「ええ、そうですが。あの?」


 私はドアから相手の方を向き直った。


「失礼。隊服ではないので解り辛いか。手の具合は大丈夫だろうか。暴行現場に居合わせた第五軍団副隊長のハワードだ」と礼をされ挨拶をされた。


「ああ。すみません。気づきませんで。あの時はお世話になりました。手は翌日に師匠にも確認して頂いたので大丈夫です。有難うございました」と挨拶を返す。


「いや、気にしないでくれ。無事なら良かった。何か困った事があれば言って欲しい。その後、問題は無いだろうか?助けになりたいが」と言われたが、もう慰謝料も貰ったし、手も治ってるし、ダレンと会う事もない。


「お気遣いなく。大丈夫です、お世話になりました。では」と、言ってドアを閉めた。



「あ」



 声が聞こえたが気にしない。


 もう軍団の人に関わりたくない。


 あの隊服もかっこいいなあとか思ってたけど、今は喪服より無しだ。


 ま、ライラさんの彼氏(仮)には悪いけど、ちゃんと挨拶したし、いいでしょ。


 さ、ご飯ご飯。と、シチューを作りおかわりをして食べた。このシチューも明日店に持って行こう。


 私は一人で、うまー。うーん、幸せ―。なんて声に出しながら食べた。


 隣では美人二人で、うふふ、あー-ん、なんてやってるんでしょうね!!



 一人で何が悪いのよ。



 私は食器を片付け、寝る準備をしながら、明日はクサクサ薬作りを頑張るぞ!


 ふはははははは!!!!と思いながら寝た。


 翌日、部屋を出て店に行こうとするとライラさんと一緒になった。


「おはよう。私、今日はいつもよりちょっと行く時間が早いの。ロゼッタさんはいつも早いのね」


 美人は朝から眩しいな、と思いながら返事を返した。


「おはようございます。そうですね。大体いつもこの時間ですね。オレンジ有難うございました。仕事先でみんなで頂きます」


「いえいえ。あ、弟と知り合いだったのね。昨日、言っていたわ」


 私が「?」と首を傾けると、「ライアンの知り合いでしょう?」とライラさんも首を傾げた。


「ひょっとしてハワード副隊長のことですか?」


「そうそう。ハワード副隊長よ」と、くすくす笑われた。


 美人がクスクス笑っても可愛いだけだな。私がやると師匠から、「何企んでやがる」と杖で叩かれるのに。


「弟さんなんですね」


「ええ、双子なの」と言われ、じっとライラさんを見た。


(言われれば似てるな。髪色と目の色が同じだ。あと二人とも美人だ)


「ああ、成程。色合いが似てますし、お二人とも美人ですね。あれ?ライラさん苗字がバードンでしたよね?」


「ふふ。有難う。ロゼッタさんは可愛らしいわ。私は最近結婚して苗字がバードンになったのよ。主人の仕事の関係でもうすぐメリア国に移るんだけど、私はこっちに残って仕事の引継ぎしていたの。そしたら学園の寮も改修だし、大変だったわ。あ、ライアンが、何か困ったことがあったら私経由でも詰所でもいいからいつでも連絡してくれ、ですって」とにっこり言われ、ドキンと胸が高鳴りそうになった。



 ライラさん・・・。



 美人って罪ね・・・。



 人妻の魅力・・・。



 こうやって浮気男は増えていくんだわ・・・。

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