心配は仕事で返す

 ランさんのけしからん胸で泣き、家に帰った。


 アパートの自分の部屋に戻ると、すごく疲れている事に気付いた。



 ああ。本当に終わった。


 ダレンとの楽しかった思い出が頭をよぎる。


 ああ、なんでこんな事になったのよ。


 ランさん程の胸があればよかったのかしら。と、自分の胸を見る。


 あー。止めだ止め。浮気する奴はする。胸がデカかろうが尻がデカかろうが、する。そうだ、魔鳩ポッポ屋の受付のお姉さんがペンをミシミシさせて言ってたじゃないか。


 若干、目も光ってたが。


「男は、浮気する奴としない奴の二種類しかいないのよ」と。


 しない奴はしない。する奴はする。


 だから、私が悪い訳じゃないってお姉さんが言ってくれたじゃないか。


 私が泣くと、お姉さんも一緒になって泣いてくれた。(同士よ!!)と言われたのは気にしない。


 そうよ。もう、考えるのは止めましょ。


 接近禁止も仮とはいえ出たし。もう会う事もないでしょ。


 そう考えを終わらせ、その日は早々と眠った。






 次の日は良く晴れて気持ちのいい日だった。


(私の心もこうだといいんだけど)


 店に着くと師匠が珍しく店にいた。ランさんはまだの様で師匠は長い煙草を吸っていた。


「おー。来たか。ロゼッタ、昨日は大丈夫だったか?」


「おはようございます師匠。もうご存じですか?昨日はランさんが傍にいてくれたおかげで助かりました。軍団の方も来てくれたので大丈夫です」


 私が挨拶をすると、師匠は煙草を消し、


「手、見せてみろ」


 と言って自分の手を出した。師匠の小さな手の上に昨日怪我した方の手を出す。


 師匠が私の手を持ち、もう片方の手をかざす。


「ふん。なるほどね」


 師匠がぽわっと光を放ち私の手を包んだ。


「ま、これで大丈夫だろ、すぐに治療されたのが良かったな。で、お前はクズ男をどうしたいとかあるのか?」


 おう、ダレン、クズ男になってるよ。


「いえ、もうどうでもいいです」


「ふん。そうか。ま、接近禁止は間違いなく決まるだろう。私からもお前の実家とクズ男の実家に手紙を出しといてやる。それでもウダウダ言ってくるなら、家に火球でも打ち込むか。あと、王国軍団がお前に詫びを入れたいんだと。どうする?」


 え。なんで軍団が。そして師匠の火球は冗談よね?


「えっと、なんで王国軍団が?」


「ほら、王国軍団隊員の不始末だしな。あとは私へのご機嫌伺いさ。可愛い弟子を虚仮にされたんだ。王宮にポーション納めないって言ったら一番困るのは騎士団や、王国軍団だろうなア?で、今ポーション作ってるのは誰だ?私じゃなくてロゼッタだ」


「はあ」


「昨日むさい連中が夜中押しかけてきてな。叩き潰しながら話聞いたら、クズ男のやらかしを王国軍団で処理させて欲しいんだと。で、ちゃんと処罰するから、これまで通り騎士団や王国軍団と付き合って欲しいとぬかしやがる。ついでにと、王宮のジジイとババア達からの手紙も持ってきやがった」


 と、王室の印が入った手紙をヒラヒラさせる。


 ヒラヒラしていい物じゃない。


「とりあえず軍団のむさい連中は年齢順に殴っといたぞ。私の弟子に手え出したんだからな。軍団の好きな連帯責任だな。そいつらに、ロゼッタがやられた手と同じ方のクズ男の手を粉砕してもいいか?と聞いたら、良い。と言われたぞ。するか?」


「結構です」



 なにそれ、怖い。



「そうか。気が変わったら言え。ジル、バル、ギルにも話は通してる。今後何かあったらこいつらを呼べ。お前の声に応える様にしてある」


「有難うございます。師匠」


「というかさ。お前、男の一人や二人、上手く扱え。心配かけんな。」


 と言うと、杖でゴツンと頭を叩かれた。



 痛い。



「すみません師匠」


「まあ、いい。とりあえず、ポーションは値上げ出来たし。慰謝料は貰えるからな。たんまり貰っとけ」


「え。がめつい」


「バカ。金は裏切らない。男は裏切ったろ」


「あ、確かに。流石師匠」


 私たちがそんな話をしているとランさんがやってきた。


「遅くなってすみません。家出ようとした所で王宮から魔鳩が来まして。時間かけない、すぐにすみますっていうから行ったのに思いのほか時間かかるしー。イライラして、師匠の名前出して怒って帰ってきちゃいましたー」


 と、ぷんぷん言いながらランさんが来た。


「ああ。昨日の件でお前にも口裏合わせをお願いしたいんだろう。大通りで軍団隊員が起こした事だからなあ」


「ええ。なんか、「どうか穏便に」とか、師匠やロゼッタとの間に入ってくれとかそんな用件で。頭にきたんでー、失敗して護身用に持ってた練薬をこけたふりしてばらまいてきました」


「え。あの、鼻が曲がりそうな腐った魚と、う〇この匂い混ぜたような練薬ですか?!」


 私は自分の鼻を押さえながら聞く。思い出しただけで吐きそう。


「うん。それ。本当腹がたっちゃって。持ってた四つ、全部ばらまいてきた。何なら一個はわざと噴水に入れてきた。今頃臭い噴水の出来上がりよー」


 師匠はけらけら笑って「いいな。う〇こ噴水。もうトイレじゃん」と言っている。


 大丈夫なのかな。不敬罪とかで逮捕されないのかな。


「大丈夫なんですかランさん?」と聞くと、


「だって私急に呼ばれて行って、そしてこけたらたまたま持ってた練薬落としただけだよー?何も悪くないですよね師匠?」と言っている。



 マジか。ランさん怖い。


 師匠はひっひ笑いながら、


「ああ、何も悪くない。落とし物ないか届けとけ。それで万事オッケーだ」と言ってう〇こ噴水と言って笑ってる。


 ランさんは「はーい、ちょっと詰所に行ってきますねー」と言って行ってしまった。


 ランさんが出ていくと師匠が「気にすんな。ランも怒ってんだ。で、お前はその分がんばれ。見返してやれ。ランにも私にも仕事で返せ」と言った。


 私はまた泣きそうになったが



「はい師匠!!」と頷いた。

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