私の努力は臭いですって?
師匠に挨拶をし、店を閉め、ランさんと途中まで一緒に帰っていると腕を引っ張られた。
「うわっ」と言って躓きそうになったがどうにか踏みとどまり、顔を上げるとダレンがいた。
思わず「げ」と言って顔をしかめた。
「おい!別れるってどういう事だよ。不動産屋からも連絡来たぞ。お前何勝手に、解約してんだよ!!」
おお、もう手紙が届いたのか。王都内だと一日で着くのか。早いな。とにかく、一人じゃなくて良かった。ランさんがいて良かった。
私はランさんの横に立ち、ダレンから掴まれた手をパンッと払いのけると、
「触らないで。私はもうあなたの事好きじゃない。リリーさんと付き合ったら?浮気男はいらないの。両家にもちゃんと連絡してるから。さよなら」
「はあ!!??お前何勝手な事してんだよ!何?やきもちやいてんの?リリーとはなんでもないって。な、別れるなんていうなよ。ロゼッタ、お前、俺の事好きだろ」とほざいた。
はあ。マジ無理。私、この人と付き合ってたんだ。この人に浮気されて泣いたんだ。
自分の男を見る目がなさ過ぎて情けなくなる。昔は優しかったのに、いつからこんな阿呆になったのか。
軍団入ってしばらくすると、飲み歩くようになったからあの頃からなのかな。じゃあ、半年くらい前か。そうか、うさ耳リリーさんとは半年か。私との3年は1時間半で清算出来たけどね。
「好きじゃない。別れる。浮気男はいらない。しつこいようなら軍団に報告する。マジ無理」
私は冷めた目でそう言うと、ダレンの顔は真っ赤になった。
「は?なんだよ。いきなり。遊びだって言ってんだろ。それぐらい大目に見ろよ。お前だって、忙しい忙しいって言って全然会ってなかったじゃないか。俺と別れてどうすんだよ。薬臭い女なんて貰い手ないぞ。お前、俺の事好きって言ってたじゃないか」
「無理。無理。無理。嫌いだから別れて」
ロゼッタ・・・はっきり言いすぎ・・・。と小さなランさんの声が聞こえてきたがしょうがない。
はっきり言わないとダレンのバカには分かるまい。
「さよなら。」
そう言って別れて歩いて行こうとすると、また腕をつかまれた。思いのほか強い力でつかまれ振りほどけない。
「離して!!」
「うるせえ!!お前が別れるなんて言うのが悪いんだろ?!なんでそんな事言うんだよ!!ちょっと遊んだだけだろ。それぐらい許せよ!お前は俺の事好きだろ!!」と言ってこっちを見てくる。
ぞわっとした。うわ。マジ無理。あんなに好きだと思ってたのに。この人マジ無理。
「離して!!」
「うるせえ!!」
と繰り返してジタバタやっていると、ランさんが軍団の人を連れてきてくれた。
こっちです。と言って連れてきてくれた隊服は見慣れない黒色のボタンだった。
第一は青。第二は黄。第三は赤。ボタンの色が各隊で違う。私はここまでは知っている。王宮に配達するのは第一から第三までだからだ。だから黒は第四から第六のどこかの部隊だ。
第四から第六の部隊の注文は軍団事務局で受け取ってくれる。他も全部それだと楽なのに。
「おい、何をやっている」
ダレンは相手を見てビクッとして急いで手を離した。
「いえ、ちょっとした行き違いです。少し口喧嘩しただけで。別に副隊長殿が来るようなことでは」と敬礼をしながら話した。
ああ、胸の所にバッジがあるわね。あれが副隊長のマークなのかしら。
「いえ、行き違いではありません。必要なら書類作って下さい。浮気され、別れ話をしたら腕をつかまれました。接近禁止をお願いしたいです」
一気に言うと、ダレンから睨まれたが気にしない。
「ここではなんだ。場所を変えよう。一番近い詰所は何処だ」
副隊長さんが言うと、ダレンは「いや、その」とか言っていたが結局詰所に行った。
ランさんも一緒に来てくれた。
副隊長さんは私からの説明と、別の部屋でランさんからも説明を聞き、ダレンの説明も聞いたようだ。
ただ、状況証拠として、ダレンが私の腕をつかんでいたことを大勢が見ていた事。私の腕が思いのほか青くなり、腫れた為治療師を呼ぶ事となり診断書を作成した事。以上から仮だがダレンは私に接近禁止となった。
ダレン側の言い分の確認の為、第二軍団の方からも事情を聴くらしい。ダレンはその事を言われ、顔が青くなった。
そりゃね。アウトだもんね。副隊長から聞かれて、他の隊員は嘘はつかないでしょう。ダレンの浮気は白日の下にさらされ、しかも元彼女に暴行未遂となる。
ざまあみろ。
私はふんっと、治療された腕をなぞりながら思った。
でもね。
ダレンが心の底から謝ってくれたら許したかもしれない。
ダレンが情けなく縋りついて謝ってきたらよりを戻す事も考えたかもしれない。
ダレンが私の事を好きって言ったなら心が動いたかもしれない。
婚約までは手を出さないって、先に言い出したのはダレンよね?
私がそれを守ったのがいけないの?真面目って悪い事?
それに、ダレンは私を好きと言わなかった。
お前だけだって。好きなんだって。そうダレンは言わなかった。
変なところで正直ね。
それが答えだった。
私はダレンにもう好きじゃないと言った。
でも、本当は少し気持ちは残っていた。
だって3年だ。16歳からずっと一緒だった。学園で友人だった時も仲が良かった。
甘えん坊で、我儘なところもあったけど、一生懸命努力して軍団に入ったのを見てきた。
私が薬学の道に進む時も、「ロゼッタなら出来る。頑張れ」と、応援してくれた。
それを。
薬臭いですって。
私の努力は臭いんですって。
は。もう知らない。もういらない。
ダレンなんか。
そう思っているとランさんからぎゅっと抱きしめられた。
ランさんのけしからんすぎる胸に顔をうずめると自分が泣いている事に気付いた。
静かに、静かに涙はこぼれる。
ああ。本当に終わった。終わったんだ。
私はランさんにぎゅっと抱き着いた。
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