3年間は1時間半で清算できる

 新しい部屋の解約手続きはすんなり終わった。


 解約すると手付金の3000ルーンは戻ってこないとの事だったが、私が払ってたので「問題ない」と答えた。


 私の部屋はそのまま借り続けるので、そちらは解約しない事を言った。次に借りる人もまだ見つかってなかったので、そのまま住み続ける事が出来た。


 ふうっ。と一仕事終え、なんとも言えない顔をされた不動産店員と、「頑張って!」と抱き着かれた眼鏡が似合う受付のお姉さんに元気よく挨拶をして不動産屋を出た。


 その足で「スーパー魔鳩便ポッポ屋」に行き、手紙より先に届くよう割高だが両家に魔鳩便を出した。(しかもスーパーソニック便にした。手紙が20ルーンで出せるのにスーパーソニック便だと500ルーンした。しかも両家で×2だ)内容を簡潔にしないとさらに割高になるので、一緒に住まなくなった事だけを書き、送った。


 ついでにと、ダレンにも手紙で(こちらは通常便、20ルーン)別れる事を送った。


 ふう、と一仕事終えた私が店に戻ると、ランさんが「おかえりー」と迎えてくれた。


 店を出て1時間半しか経っていなかった。


 店に入り時計を見て驚いた。


(そうか、私とダレンの3年は1時間半で終わる事なのね)



「おーい。サレ女。早くポーション作れ。注文詰まってんだ」と、奥から師匠の声がし、私を呼ぶ声から、ランさんに事情を聴いている事が分かる。


「サレ女・・・。そう。私はサレ女・・・。ロゼッタ・サレ・ジェーンと改名しようかしら。ふふふ・・・」と笑っていると。


「おい、サレ女。キモイ笑いはいいから早く作れ。」と師匠の杖でバチコンと頭を叩かれた。


「痛い・・・」



 師匠は自分の身長よりもうんと大きな杖を持っているので叩かれると痛い。



(まあ師匠はエルフ族と小人族のハーフなので私の胸程しか身長がないが)



「早く分かって良かったじゃないか。お前、これがあと1ヵ月遅くて一緒に住んだ後だったらもっと面倒だったぞ。半年後に分かってみろ。両家の婚約話も進んで、最悪だぞ。1年後だったらお前結婚してたかもしれないぞ。悲惨だな。早く分かってよかったな」


「ロゼッタ運がよかったねー。はい、これ」



 と、ランさんから追加のポーションの材料を受け取り、え、私は運が良かったのか?そもそも浮気されない事がいいんじゃないの?と思ったが、



「分かりました!!運が良いサレ女はバンバンポーション作りますよ!!どんどん材料持ってきて下さい!バッチコイですよ!!」と言って腕まくりして錬金釜に材料を入れていった。



 うおおおおおおおおおおお!!!!!!!



 かかってこいやあああああああ!!!!!



 っと、今までないくらいの勢いでポーションを作り、ランさんが置いていく目薬の材料と注文書、腹痛の飲み薬の材料と注文書、熱冷ましの材料と注文書、喉の痛み止めシロップの材料と注文書・・・。キリなく置いていくランさんとニヤニヤ笑う師匠をよそに私は薬を作り続けた。


 私の中の魔力が無くなりそうなところで、「ほい、ストップ」と師匠から声がかかり、その日は終わりとなった。


 ふらふらになった私だが、魔力がなくなりかけた気持ちと同じように、情けなかった気持ちや、悲しかった気持ちが少しすっきりしていた。



(まあ、それでも許さないが)


 許す訳ないが。許すと言う選択肢があるわけない。


 私の項目には。ノー、いいえ、否しかない。


 今日出来上がったポーションの色が少し暗い色なのは仕方ない事だろう。私の心の闇が移ったに違いない。


 師匠がポーションを振りながら確認し、「品質に問題はない」と言っていたので、いいのだろう。


 ランさんは大量の薬を注文順に並べていき、「これは明日以降は楽出来そうだねー」とほくほくしていた。



 お役に立てて何よりだ。



「さ、今日はもう終いだ。ランもロゼッタも表閉めたら帰っていいよ」と言い、師匠は奥の工房へと行った。


「んー、じゃあ、ロゼッタ帰ろうか。今日は一緒に何か食べて帰る?」


 普段そんな事言わないランさんが聞いてくる。



 くそう。泣きそうだ。



「いいえ、酒買って、何か簡単につまめるもの買って、部屋で一人で暴れます」と言うと、


「うーん。大丈夫?飲みすぎないようにね。一緒にいる?明日仕事これるー?休むー?急ぎの追加注文ないなら大丈夫だけどー?」



 うう。ランさんが優しい・・・。今ならその豊満な胸に飛び込んでも許してくれるかな。



「明日、朝休んでもいいですか?昼からは行きます。では」


 手を振るランさんに別れを告げ、食堂に寄り、酒と食べ物を買うとアパートに戻った。


 部屋に帰り着き、一人になると、涙があふれた。



 うううううう。くそう。


 泣くもんか。んがーーーー!!!



 私は結局、泣きながら酒を開けチキンとポテトとドーナッツを食べた。ダレンの悪口を吐きながら、ぐびぐび酒を飲み、えぐえぐ泣き、



 なんでなのようー!!!



 いつからなのようー!!



 バカー!!阿呆ー!!クズー!!っと叫んだ。



 ひとしきり泣いていると、アパートの戸が叩かれた。



 私は泣きながら「はい」と言って戸を開けると、綺麗な女の人が立っていた。


「あ、泣いてたのね。ごめんなさい。ただ、ちょっと、声が気になって・・・」


 と、言われ、


「あ、ずみまぜん。ぶるざかったでずね。じずがにのみまず」と言って頭を下げた。


「ええっと・・・。まあ、うん。お大事に?」と言われ、戸を閉めようとすると、


「おい。なんだった?」と、男の人の声がすぐ聞こえ、綺麗なお姉さんが「うん、泣いてたの。大丈夫みたいよ。」


「そうか。まあ、無事ならいいが」と言って声はパタンと聞こえなくなった。




 ・・・・・・。



 ちくしょー!!!!!



 どうせ私は一人ですよ!!!相手は浮気男しかいませんよ!!



 サレ女ですよ!!!



 なーにが、ベタ惚れだ!はんっ。もう別れたもんね。あんな男いらないわ。



 リリーさんにあげるわよ。リサイクルに出してあげるわよ!!



 ああ・・・。3年も無駄にしたのか・・・。



 好きだって、ダレンが告白してきたのに!!



 私の青春は何なんだ。ぐぞー!!!



 私は静かにちびちびと飲みながら枕に顔をうずめ寝た。

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