浮気をされた見習い魔女は、今日も元気にポーションを作ります【第八章完結】

砂糖 あられ

1章

配達先で知ったのは

(マジかー!!!ぐぞう!!!ぢくじょう!!!!)


 私はベッドにボンっとダイブし枕に顔をうずめ、ヴオーっ!!!と泣き叫んだ。 えぐえぐと、声は枕から漏れ、鼻水、涙も垂れ流す。


 私が顔中の穴から色々垂れ流してる原因は、今日の昼前まで時は少し遡る。




 私、ロゼッタ・ジェーンは王都にある薬局に勤める薬師で、王宮にポーションや薬の受注配達に来ていた。注文を受けた商品を王宮の各部署に届け、新しい薬を受注する。


 わざわざ各部署に配らず、王宮内で一括して受注してくれれば良いのだが、師匠の顔が無駄に広いせいで変な信頼があり、弟子の私も王宮の出入りを許されている。


 そのおかげで、門で薬渡してはい終わり。と言う訳にもいかず各部署に挨拶しながら渡していく。


「どうもどうも、お世話になります」と薬を渡し、「あ。こちらにサインを」と、サインを貰い薬を受注する。その時に、「お疲れさん」と言われ飴を貰ったり、「これ食べな」と言われ焼き菓子を貰ったりするので、まあ良い事もあるのだが。


 そうして本日最後に回ったのは第一騎士団だった。


 第一騎士団は王宮警護が主で騎士団の詰所も王宮内と王宮外に二か所ある。王族の警護、王宮内の警護を主とする。


 私は第一騎士団の王宮内の詰所を出て、さ、店に帰ろう。と、門の方へ向かったが、


(そうだ、第二軍団の方へ回って帰ろう。ダレンと会えなくてもちらっと見えるかもしれないし。最近。会ってないしね)


 と、思って私は恋人のダレンがいる第二軍団の方へぐるっと遠回りして帰ることにしたのが運の尽きだった。


 いや、何も知らないままよりは良かったのか。


 私は、荷物もなく軽くなった足取りで、ふんふんと第二軍団の方へ急いだ。第二軍団の訓練場は街の治安警護を主にしている為、王宮より遠く裏門の近くにある。


 ちなみに第二騎士団は主に第一騎士団が警護していない王宮の警護や各国の要人等の警護にもあたり、第一騎士団と第二騎士団は王に仕えている。


 全6軍団からなる王国軍団は国に仕える軍団であり、第一軍団は王宮と教会の警備を、第二軍団は王都の警備を、第三は王都以外の国土を北、東、南、西の地区四つに分け警備し、その為、第三軍団は四つに班を分け国中に散らばっている。そして第四、第五、第六は陸、空、海の警備が主となるのでここには仮詰所しかない。


 そうやって、るんるんしながら第二軍団の鍛錬場を覗いたがダレンはいなかった。


(やっぱり忙しいわよね。少しでも会いたかったけど、残念)


 そう思って門の方へ歩いて行こうとしたら第二軍団の詰所から声が聞こえた。


「うわー。お前悪いなー」


「いや、別に普通だろ。相手が勝手に来るだけだから」


「いや、ひでー」


「程々にしとけよ」



(ダレン?)



 何人かの下品な笑い声と共にダレンの声が聞こえてきた。



「はあ。ロゼッタちゃん、いい子じゃんか。大事にしてやればいいのに」


 誰かの溜息と一緒に私の名前が聞こえてきて、思わず聞き耳を立ててしまった。


「いや、俺なりに大事にしてますよ。ただねー。やっぱり他、断るのもめんどくさいし。遊びですよ遊び」



(はあ?)



「よく、ロゼッタちゃんにバレないな」


「そこは、上手くね。ま、バレたところで、どうでもいいですよ。ロゼッタ、俺にベタ惚れなんで」


「すげー自信。いいなあ、あんな子からベタ惚れなんて」


「でも、やってることはサイテーだなあ」



 笑い声とダレンの声が聞こえる。



「ひでーよなあ。居酒屋のリリーちゃん、どうすんだよ。結構あれ、本気だぞ。お前、一昨日の非番に宿、一緒に泊ったの?」


「あー。まあ。ちゃんと届は出してますよ。でも、もういいかな。本気になられると面倒なんで。遊びの相手がいいんすよ」


「リリーちゃん。ボンッキュッボンだよな。いいなー」


「まー、遊びかあ。でもロゼッタちゃんにバレたら怖えなあ」


「ロゼッタ真面目で婚約までは手え出せないし。まあ、遊びも来月までですかね。流石に同棲したらバレるんで」


 はははと笑い声とともに声は遠ざかった。



(何?今の何?)



 私はパニックになりながら王宮の門を抜け、仕事場の薬局に戻った。ドアを開け、店に飛び込むとランさんが店番をしながら、薬を捏ねていた。


「おかえりー。どうしたのー?顔色すごいよー」


 先輩のランさんが声をかけてくれてはっとした。


「あの、ちょっと私の頬つねって下さい」


 ほいよ。っと掛け声されて勢いよくつねられる。


「痛い痛い。は、マジか。夢じゃない」


「で、どうしたのー。大丈夫ー?なんで私、つねったの?」


 コロコロと練薬を作りながらランさんが聞く。



「えっとですね・・・」と言い、第二軍団の詰所で聞いた話をする。


 王宮で貰った新たな注文書を注文受けに入れていきながらランさんに話すと、自分でも落ち着いてきた。



「うん。アウトだねー」



(やはり。そうか)



 練薬が出来上がり大きなボールの上に置いた。その上にガーゼを置きながらランさんが答えた。


「ですよね。やっぱりそうですよね。アウトですよね。一瞬夢かと思ったんですが」


「居酒屋のリリーちゃんも知ってるよ。飲み屋街の方にある居酒屋でウエイトレスやってる。夢じゃないよー。ちなみにリリーちゃんはロゼッタの10歳上かなあ。ムチムチボディでバニーのお姉さんだよ。居酒屋の上が宿屋になってるし、そこに泊まったんだろうねー」


 私にポーションを作る材料を渡しながらランさんは答える。


「え。マジですか。リリーさんも宿屋も現実なんだ・・・。うさ耳かあ」


「あーあ。どうすんのー。来月一緒に住むって家、準備してたじゃん。親同士にも手紙出したんじゃなかったの?」



 材料を受け取り錬金釜の方へ行きながら、グイんと首をランさんの方へ回した。



「あ、そうだ。どうしよ。あー。もうマジないわ。落ち着いてきたら、腹立ってきた。最近会ってないからどうしてるかなって思ってたのに。急いで部屋解約してきます。親に手紙も出してきていいですか?ポーション、落ち着いて作りたいんで。先、解約だけさせて下さい。裏の不動産、トコトコハウスなんですぐすみます。仮契約で良かったー」


 私は材料を釜の横に置き、ランさんの方を見た。



「おー、早く行っておいでー、師匠が起きてきたら言っとくから。感情コントロール出来なくて、ポーション爆発されたら赤字だし」


「ありがとうございます。では早速」



 と言うと、シュバッと音が出そうな勢いでドアを出ると、裏の不動産屋、トコトコハウスに行き、あっという間に来月住むために押さえてた部屋を解約した。




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