最終話 初めての言葉

「ジョーはいつまで私と一緒に居てくれるの?」

冒頭から不穏な会話になるのだが本日は店休日でミアとベランダでお酒を飲んでいると言う状況だ。

「なんだ?急に」

「急じゃないよ」

「この間も言っただろ?」

「何を?」

「いつまで居ても構わないって」

「でも…そのうち恋人作ったりしない?」

「しない」

「したくもならない?」

「ならないよ」

「性欲はあるんでしょ?」

「自分で処理すれば良い」

「虚しくない?」

「別に。楽でいい」

「なにそれ。勝手だね」

「誰にも迷惑はかけてない」

「そうかもしれないけど…子孫を残す気はないの?」

「ない」

「なんで?」

「自分の子が出来るとか想像できない」

「そういうものなの?」

「父親になるだなんて想像するだけで息苦しくなる」

「子供も愛せないって思うの?」

「まぁ…無理かもな」

「血が繋がってない私のことを妹だと思えるのに?」

「それとこれとは別だ」

「同じようなことでしょ?」

「………」

僕はそこで言葉に詰まり瓶を口に運んだ。

そのまま中身のビールを喉の奥に流し込むとテーブルの上のタバコに手を伸ばした。

「それで?何が言いたいんだ?」

「私と一緒になって」

「一緒にって?」

「結婚」

「一気に飛ぶんだな」

「だって他人を愛せないんでしょ?」

「まぁな」

「私なら都合が良い」

「なんの?」

「だって血が繋がってない妹だから。私なら愛せるんじゃない?」

「かもな…」

「だから…」

「結婚しろって?」

「さっきからそう言ってる」

「両親になんて言うんだ?」

「もう言ってある」

「は?」

「だから一緒に住む前に言っておいた」

「なにを?」

「ジョーにプロポーズするって」

「それで?」

「絶対に落とすから。今の関係をぶち壊すようなことはしないって約束してきた」

「うん。両親はなんて?」

「それなら好きにしてみなさいって」

「まじかよ…」

「ジョーの返事は?」

「まぁ。今までの関係と何ら変わりなさそうだし…」

「良いってこと?」

「そうなるな」

「ホント!?」

「本当」

「やった!じゃあパパとママに連絡しておくね」

「あぁ」

僕は仕方なく流れに従って血の繋がらない妹と一緒になることを決める。

両親は喜び、ミアを祝福してくれたらしい。

その日以降もミアはバーで働き、家では僕と過ごすこととなる。

これは僕と血の繋がらない妹の他愛のない会話劇なのである。


「今月も黒字だな」

「女性客は推しのことになるとお金を払ってくれやすいよね」

「推し?何のことだ?」

「ジョーのことだよ。自覚無いの?」

「全くないが…」

「みんな推しを一目見に来てくれてるんだよ」

「そうだったのか…」

「それに加えてお酒も飲めるんだよ?最高な環境でしょ」

「そうかもな」

「ジョーがモテるのはいいけど…ちょっと不安かな」

「なんで?」

「誰かに取られそうで」

「ありえないだろ」

「なんで言い切れるの?」

「僕に恋愛感情がないのとミアが居るからって理由」

「少し薄い」

「ダメ出し?」

「そうだよ。スマートに愛してるぐらい言ってよ」

「イヤだよ」

「なんで?」

「照れくさいだろ」

「今更?もう良いじゃん」

「何も良くない」

「じゃあ愛してない?」

「そうは言ってない」

「じゃあはっきりと言って」

「面倒なこと言うようになったな」

「昔からでしょ?」

「思い返してみればそうかもな」

「ちゃんと言ってね?」

「わかったよ」

「はい。どうぞ」

「そう急かされると言いにくい。今まで口にしたことのない言葉なんだ」

「嘘でも言ったことないの?」

「ない。嘘は嫌いだし」

「じゃあ私が初めてになるんだ」

「そうだな」

そこで僕らの会話は途切れるとミアは期待の眼差しで見つめてくる。

「ミア…」

「はい」

「愛してるよ」

「ありがとう。私も愛してる」

これは血の繋がらない兄妹が実の夫婦になったお話なのである。

               完

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