第7話サエ(24)

太い客と言うと言い方が悪いかもしれない。

しかしながら毎週のように訪れては大金を落としていく女性客が居る。

サエ(24)は有名人だった。

彼女は週イチの休みにバーに訪れると高級なお酒を注文する。

サエの為だけに仕入れたお酒もいくつか存在する。

彼女のお陰で僕は何不自由ない生活を送れていると言っても過言ではない。

そんな彼女との会話なのであった。


「本日もご来店ありがとうございます」

「堅苦しいのは良いよ」

「ですが…」

「ホントにホントに」

「かしこまりました」

「今日もいつものお願い」

「はい。何かつまみますか?」

「うん。適当に」

「かしこまりました」

「新しい人雇ったの?」

「はい。妹でして」

「妹居たんだ。シスコン?」

「そんなことないですよ。その逆です」

「ん?ブラコンってこと?」

「そうだと思います。休日に兄の家に押しかけてくるような妹ですので」

「へぇ〜愛されてるんだ」

「かもしれません」

「今も押しかけてくるの?」

「いえ…今は一緒に暮らしてます」

「二人で?」

「まぁ…」

「へぇ〜特別な関係?」

「全然。ただの兄妹ですよ」

「ふぅ〜ん。血が繋がってないとか?」

「何故そう思われたのですか?」

「実の兄妹で一緒に住むって考えにくいなって言う先入観」

「なるほど」

「で?どうなの?」

「お察しのとおりです」

「へぇ〜じゃあそういう関係?」

「ないですよ。休日に一緒にお酒を飲むぐらいです」

「ここにも雇うぐらい大切なんでしょ?」

「まぁ…兄妹ですし」

「ふぅ〜ん。ジョーにしては珍しいね」

「ですかね…気の迷いですよ」

「妹にだけ優しいんだ?」

「………」

僕はそこで言葉に詰まると一度キッチンに引っ込む。

「持って行って。早く帰ってもらってよ」

「そうはいかないだろ。気まずいけど行くわ」

小声でミアとやり取りをするとキッチンから店内へと戻る。

つまみをテーブルの上に出すと会話は再開する。

「妹はジョーに気があるんだ」

「何とも言えませんね」

「私のアピールには全くなびかないのにね」

「そんなことは…」

「あるでしょ?私の好意に気付いてるでしょ?」

「まぁ…」

「それでも妹が大切?」

「二人を同じ天秤には乗せられません」

「上手く逃げたね」

「ですかね」

そこからサエは黙ってお酒を飲むとつまみを完食して会計に向かう。

「美味しかったって伝えておいて」

「はい」

「じゃあまた来週」

「お待ちしております」

サエのいなくなった店内でミアはキッチンから顔を出す。

「何だったの?」

「う〜ん。想像している通りだと思うよ」

「からかってる?」

「そう」

「純粋に好意じゃなくて?」

「そんなわけないだろ。有名人のサエさんが僕に気があるわけない」

「そうかなぁ〜…」

ミアは心配そうな表情を浮かべるが僕らはそこから何も会話をせずに閉店作業を行うのであった。

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