第6話客が来なかった日

本日、来店された客は一人もいなかった。

たまにはそういう日もあるだろう。

グラスも拭き終えて、やることはまるで無くなった。

暇を持て余した僕はタバコに火を付ける。

一服しているとキッチンからミアが顔を出す。


「今日暇すぎない?」

「そういう日もある」

「それにしてもなんで今日は暇なの?」

「雨だからじゃないか?」

「梅雨だもんね」

「雨の降る中、外に出ようと思う人も少ないだろ」

「社会人はそれでも会社に行くでしょ?」

「そうだけど。雨宿りもせず早く帰りたいんだろ。少し肌寒いし」

「半袖だと寒くて長袖だと若干暑いよね」

「暑いか?僕は長袖で大丈夫だけど」

「痩せてる自慢?」

「なんでそうなる…」

「脂肪が少ないって自慢じゃないの?」

「妹に自慢して何になる」

「なんだ。ただの世間話だったのか」

「そりゃそうだろ。ってか話の揚げ足取り出したら会話なんて出来ないぞ」

「そう?揚げ足取るのも楽しいじゃん」

「良い性格してるな」

「褒めてくれてありがと」

「褒めてない」

「今日は早めに閉店して帰らない?」

「そうはいかないだろ」

「別にいいじゃん。個人経営の店なんだし自由にしなよ」

「そうだけど…来るのを楽しみにしている人が居るかもしれないだろ」

「こんな雨の日に居るわけ無いじゃん」

「それもそうだな…」

「帰ったらつまみ作ってあげる」

「晩酌するのか?」

「したくない?」

「それもいいかもな」

「じゃあ早く閉めちゃお」

僕はそれに頷くといつもよりも早めに閉店作業を行う。

店を完全に閉めるとそのまま帰路に就くのであった。


帰宅するとミアは宣言通りにつまみを作ってくれて僕らは晩酌を楽しむ。

「雨って意外に心地良いよね」

「リラックスは出来るな。室内に居ることが前提だが」

「なんか落ち着くんだよね」

「それは良かった」

「つまみの味はどう?」

「いい塩加減」

「美味しいってこと?」

「そういうこと」

「じゃあそう言ってよ」

「それだけだと嘘くさくないか?」

「そんな事ないよ。はっきりと伝えてほしい時もある」

「そうなんだな。美味しいよ」

「ありがとう。ジョーはこれからどうするの?」

「どうするって?」

「いつまでも一人?」

「その予定だが」

「孤独はつらくない?」

「ミアが居るからなぁ」

「え?これからも居ていいの?」

「ダメって言っても居るんだろ?」

「そうだけど…本当に良いの?」

「良いよ。別に」

「ありがとう」

「どういたしまして」

僕らはそこから眠るまでリビングのソファに腰掛けながら晩酌を楽しむのであった。

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