第2話サキ(28)
本日も閉店間際のバーに駆け込むように彼女は現れた。
サキ(28)。
結婚願望の強い女性である。
運命の相手の存在を願っている少しだけ夢見がちな女性。
そんな彼女との会話は始まるのであった。
「マスターって結婚してるんだっけ?」
「いいえ。していません」
「いくつなんだっけ?」
「35です」
「する気はあるの?」
「全く無いですね」
「どうして?」
「煩わしく感じてしまうからでしょうか」
「恋人を?」
「はい。私には恋愛感情が欠如しているのかもしれませんね」
「それって辛くない?」
「別に辛くはないですよ」
「性欲はあるの?」
「ありますよ。不思議に思いますか?」
「うんん。思わない。性欲と恋愛感情は別だからね」
「昔はそれを一緒だと思っていて痛い思いをしました」
「どういうこと?」
「性欲があるので恋愛もしていたんですが…見た目に興奮するという以外に相手に何も感じられなかったんですよ」
「難しいね。雑誌とかテレビに映る人を見るみたいな感じ?」
「それとも少し違うんですが…とにかく女性側からは酷い言葉を散々言われました。被害者ヅラするつもりはないです。僕も同じように酷いことをしたし言ったと思うので…」
「そっかぁ…私は早く結婚したいなぁ〜」
「結婚ですか。どういった方としたいんですか?」
「ん?何もかもが好みな人」
「そんな人居るんでしょうか?」
「この世の何処かには居るでしょ?」
「そうだといいですね。妥協する気はないのですか?」
「無い。一生一緒に居る人に妥協なんて出来ない」
「そうですか。ですが例えば結婚した後に合わない箇所が見えてきたらどうするんですか?」
「新しい人を探すかな」
「自分の勝手な思いだけで離婚すると?」
「離婚って悪いことじゃないでしょ?犯罪じゃないし」
「そうかもしれませんが…今まで愛してきた人のことを考えないのですか?」
「知らないよ。私が幸せじゃないと意味ないし。他人の人生は生きられない。私は私を幸せにするために生きているんだから」
「サキさんの幸せってなんですか?」
「ん?運命の相手と永遠を共にすること」
「ですか。それならば妥協も出来ませんね」
「そうなの。これから現れると思う?」
「自分から積極的に出会いの場に行くしか手段はないのでは?」
「そうだよね。ある日突然、目の前に現れるなんて滅多に無いことだよね」
「そうだと思いますよ。ですが0では無いとも思います」
「そう?でもずっと一人は嫌だから探しに行くよ」
「気をつけて。慎重にですよ」
「ありがとう。じゃあまた来るね」
サキはそこで会計を済ませると店の外に出る。
僕は閉店作業を進めながらタバコに火をつけた。
過去の自分の恋愛を思い出しながら少しだけ複雑な気持ちに見舞われる。
自分の気持ちに正直なサキを見習いながら僕は明日の客のことを夢想するのであった。
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