君と紡ぐ、時代の星

 ドドラは上陸前に撤退したため、施設への被害は沿岸の生け簀のみ。早期に避難した住民に死傷者はなく、シャドウ・チームでも数名が魔法の反動で体調を崩したくらいだった。理想的な作戦成功である。

 そして、作戦の成果はもう一つ。


「おーー、早速反響すごいね?」

 作戦から帰還した夕刻。壊対庁のオフィスにて、テルナはモニターを眺めて満足そうに笑っている。

「まあ……こう切り取られるとヒーローみたいになりますよね……」

 一方のヒナツにとっては、恥ずかしさが勝っていた。


 魔法少女作戦群によるドドラ対応は映像で記録されており、その一部は編集されてウェブ上に公開されているのだ。支援するシャドウ・チームの存在は映さずし、少女たちの魔法が決まる瞬間や励まし合うシーンをつなぐことで、ふたりの勇ましさと仲睦まじさがさらに強調されていた。


 作戦映像の公開は、表向きは「壊獣対応についての国民の理解のため」という趣旨である。ただ、主導しているテルナたちの思惑は別にあった。

「けど、やっぱりさ。ヒーローって必要なんだよ、過酷な世界には」


 壊獣災害という、生活を揺るがす理不尽に対して。

 物理的な対応だけではなく、精神的な支えまで提供したい――アイドルでありヒーローである魔法少女の姿を輝かせたい、というビジョンだ。


 幼い子供はともかく、魔法の知識のある国民であれば、独力であれほどの魔法を使うことは出来ないと知っている。実際、魔技師の支援によって成立していることも、情報としては公開されている。

 それでも多くの国民は、演出されていると分かったうえで、魔法少女という物語に熱狂していた。職業人として、親として、学生として、彼女たちの勇ましく可憐な姿に奮起して日々の励みとしていた。その積み重ねが、壊獣災害に負けない社会を支えている。


〈俺も故郷の復興頑張るわ〉

〈魔法は使えないけど立派な医者になりたいって、娘も張り切ってます!〉

〈ドドラのせいで生活めちゃくちゃになったけど、ヒナミユが頑張ってるならしょげてらんないからね〉

〈今日も尊い、ヒナミユが生きてる時代に生まれて良かった〉


 動画に寄せられたコメントを眺めつつ、ヒナツは問う。

「あたしが頑張ればみんなも頑張る、って思っていいでしょうか」

「思っちゃえ!」

 テルナは笑顔で親指を立てる。そして、今日は珍しく。

「……私も、そうだから」

「ん、何かなミユキ」

「私も、ヒナツさんが頑張っているなら、頑張れるから」

 うつむいたまま小声で、けど確かにヒナツにも聞こえた言葉。

「おお……ありがとねミユキ、またよろしく」

 その温もりを胸に、ヒナツは笑顔で帰路につくのだった。

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