魔法少女ヒナツ×ミユキ
人間の怨念と融合することで巨大化・強化された魔獣のことを、シマキト皇国では「壊滅級巨大魔獣」――俗に「壊獣」と呼称している。人類の兵器や魔法で駆除できた例はない、壊獣を殺すことができるのは他の壊獣と病魔だけだ。
よって人類にできるのは、壊獣から避難しつつ、遠方へと移動を誘導することのみである。数十年に一度のペースで壊獣が出現するたび、皇国の総力を挙げて対処が行われ、そのたびに社会構造も変化してきた。
聖暦2020年、観測史上では23年ぶり41体目に出現した壊獣がドドラだ。フォルムは亀に似ており、蔓のような触手状の器官も備えている。体高は約30メートル、体長は約70メートル、体重は2万トン以上と推定されており、壊獣の中でも大型の部類だ。
鈍重で凶暴性も低く、普段は海中に生息。しかしひとたび上陸すると、その巨体ゆえに歩き回るだけで甚大な被害をもたらす。初めて南皇海から現れた際は、海沿いに発展していた工業都市が丸ごと廃墟となり、5万人の避難民と20万人の失業者を出していた。
しかし聖暦2023年現在、皇国の壊獣災害対策庁は、ドドラの侵攻を阻止する手法を確率しつつあった。
その中核を担うのが、ヒナツやミユキのような魔法を操る女子学生たちである。
*
ドドラ上陸警報の発令を受け、壊対庁の輸送機が学園に到着。学生服から作戦服に着替えたヒナツたち6名の生徒を乗せ、作戦地域へと飛び立った。
「やっほー、みんなよろしくね!」
機内で生徒たちを迎えたのは、壊対庁幹部であるテルナ=ミツザキだ。壊獣研究でめざましい成果を挙げ、30歳の若さでドドラ対策の指揮を執る稀代の才媛――なのだが、あまりにも童顔なので学園の先輩のように見えてしまう。そして本人も、生徒相手には軍人というより先生のような雰囲気を心がけているようだ。
「それじゃブリーフィング始めます!」
「お願いします!」
テルナの号令に、ヒナツは頬をはたいて気合いを入れる、ここからはみんな命がけだ。
「ドドラは現在、海上をトラクリ市方面へ移動中。避難区域と防衛線は作戦図の通り、第一目標は上陸の阻止です」
海岸に近い住民は、予め割り振られているシェルターに避難している。もしドドラが接近してきたら魔法で一斉に転移できるが、魔力消費も健康への影響も絶大なので最後の手段である。
「君たち連理班、先発はヒナミユ。次いでクレミド、そしてアキルナです――この順で大丈夫?」
「はい!」
ヒナツとミユキ、揃って同意。
「OK、先週更新された対策表はチェック済みだね? あと現場の地形とマナ特性はこんな感じで――」
そうして打ち合わせを重ねながら、機体は臨時作戦本部であるトラクリ市役所へ到着。さらにヒナツとミユキは上陸予想地点まで移動する。対策庁隊員の運転する軍用車に揺られつつ、ヒナツがテルナからもらった資料を読み返していると。
「ねえ、ヒナツさん」
「何?」
「前も言ったけど、張り切りすぎないでね……その、私まで危ないんだから」
ミユキに突きつけられた警告に、ヒナツの胸はズキリとなる。
「ありがとう、気をつける」
ミユキが正しいことを認めつつ、ヒナツにも譲れない信念がある。
「けど。演技じゃなく本当の意味でミユキの相棒になりたい……ミユキばっかりに任せたくないってのも、諦めないからね」
「……ええ。けど約束して、まずは自分を大事にするって」
ミユキから差し出された小指――ヒナツに意図は通じるけど、意外だ。ミユキ、こんなキャラだっけ。
「うん、約束」
ヒナツのに絡むミユキの小指は、ちょっと痛いくらいに強かった。
作戦開始地点である海岸へ到着。10分後に作戦開始が指示され、ヒナツとミユキは車を出た。
「じゃあ、行きましょう」
「うん、行こうミユキ――いや、」
意識を切り替えたい。これからヒナツとミユキは、無二の絆で結ばれた相棒にならねばならないのだ。
「行こう、ミユキ!」
ミユキの手を取って、ぎゅっと胸元に引き寄せて、満面の笑みで。
それに応えてミユキも、演技丸出しの不器用な微笑みを返す。
「スターズ・ワン、離陸します!」
ミユキが合図し、ふたりで飛行魔法を詠唱。年齢の割には高度だが、浮遊しながら水平方向にもゆっくり移動できる程度の魔法である。
そう、ふたりだけならば。
〈ウィング・ワン、同調開始〉
〈キャッチャー・ワン、追跡します〉
ヒナツとミユキを中心に、海上から市街地に至るまで。シャドウ・チームと呼ばれる100人以上の魔技師が潜伏、遠距離からふたりの支援を担う。
飛行魔法のプロによる補助を受け、ふたりはプロペラ戦闘機のような高速機動で海上のドドラに接近。先行するヒナツは飛び蹴りの姿勢を取りつつ、周囲の魔技師たちへと合図する。
「キックいきます!」
加速魔法、身体強化および保護魔法の支援。後方からミユキがカウント。
「衝突――3、2、1、」
「止まりなさーーーーい!!」
ヒナツは叫びつつ足からドドラ頭部へ衝突、接触点へと衝撃魔法の支援。ドドラにとってダメージにはならないが、存在を気づかせるには十分なインパクトだ。
そして、ふたりの演技も始まる。
「いった~、全然効かないや!」
ヒナツは足を抱えて痛がりつつも後退――痛んではいないし不安定な姿勢でも飛行できている、魔法支援の賜物である。
「こらヒナツ、無茶しないの!」
追いついたミユキ、空中でヒナツを抱き止めつつも叱る。
突然にぶつかってきた生物を捕まえようとドドラの触手が伸びる、それらを避けながらふたりは言葉を交わす。
「今度は一緒に行くわよ、ヒナツ」
「OKミユキ、見せてあげよ!」
ふたりは両手を絡め、額を合わせる。同時に多種の魔法障壁がふたりの周囲に展開、安全を確保。
脅威の目前にいる緊張と、これから起こるイベントへの恥ずかしさで、ヒナツの鼓動は暴れるけれど――ええい、これがお仕事だい!
心のスイッチを入れて、ヒナツは唱える。
「愛と勇気を魔法にこめて、」
続いてミユキ、深い皺を眉間に寄せつつ、凜とした声で。
「みんなの平和を守るのは、」
ふたりは唇を重ねる――ヒナツにとってはやっぱり恥ずかしい、けどミユキの唇はちょっと気持ちいい、なんて考えている場合ではなく。
〈メタモル・シークエンス、開始〉
キスの直後、ふたりを起点に閃光と衝撃波が放たれる。同時に。
「ドォオオ!?」
ドドラが吼え、歩みが止まる。まるで、少女同士のキスが持つ意味を知っているかのように。
巨大壊獣の視線の先、ふたりの姿が変わっていく。
「灼熱の満開、ヒナツ!」
炎の幻影がヒナツを包み、グレーの作戦服をドレス型戦闘服へと塗り替えていく。
「白銀の峻厳、ミユキ!」
ミユキを包むのは氷の幻影。ふたりのドレス型戦闘服には、それぞれ炎と氷を模したカラーリングと装飾がきらめいている。
衣装変化が完了したのを確認し、ふたりは手をつないで声を揃える。
「ふたりで無敵、魔法少女連理ヒナミユ――参上!」
花火をバックに、背中を預け合うようなポーズを決めると。
「ドォ、ドォオオオオオ!!」
ドドラは再び吼え、触手やヒレで海面を叩き散らしていた。
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