第6話 あれから1ヶ月

なんと、こんな生活が1ヶ月も続いた。公式訪問も積極的にこなしていたカメリアが1ヶ月も国民に顔を見せていないということで国民は不安になった。表に出なくなった王妃殿下について国民の間であらゆる噂がたった。


「ご懐妊かしら?」


「そしたら公式発表があるんじゃない?」


「ご病気かしら?」


「発表できない程大きな病なの?」


「国王が飽きちゃったんじゃない?他人に興味がなかったものね」


「それが1番可能性が高いわね。ご自分の美しさに酔ってらっしゃるもの、国王は」


平和ボケしているリブロンの国民は王室スキャンダルが好物である。話題はほとんどが国王夫妻のことであった。



王妃の私室ではジャスマンが診察をしていた。


「お食事がしっかり摂れているようですので体調はもう問題ありませんね。ただ、まだ痕が残っておりますね。このご様子ですと今後綺麗に元通りにとは言えないかもしれません」


「…そのようですね」


カメリアも鏡で確認すると頷いた。


「しかし、この程度でしたらお化粧を施せば隠せるのではないですか?」


「いえ、私は肌が強くないのでお化粧は最低限しか施さないのです。白粉は特に肌に合いません。パーティーなどここぞという時しか化粧はしないので、1日中だとか毎日といったことは難しいのです」


カメリアの美しさを保つ秘訣が何も施さないことだったとは。元の造りが既に美しいのだ。これではこってりと着飾った貴族令嬢がジャレッドに見向きもされなかったことに納得であった。


ここでオリヴィエが質問と提案をした。


「あの、妃殿下は髪型にこだわりがありますか?」


カメリアは全体的に髪を長く伸ばしており、ハーフアップにして額をしっかり出す髪型をしていた。その方が顔がよく見えるからだ。これは公に立つ際国民に目力を使った表情がよく見えるようにという皇太子妃教育で得た配慮だったが好みというわけではない。


「いいえ」


「それでしたら傷痕を前髪で隠すのはいかがでしょう?」


「あら、オリヴィエ、それは良い考えですわ。こうなったら前髪を作っておろして傷痕を隠しましょう」


こうして傷痕を隠すことには成功した。





一方その頃、ジャレッドは苦悩を抱えていた。


(あれから1ヶ月…。カメリアの顔を見ていない。同じ王宮にいるのに、会うことすら叶わない)


市井では国王夫妻の不仲が噂されていると国王であるジャレッドの耳にも届いていた。


(それも仕方のないことか…。何せ、結婚して1年半、好みはおろか名前すら知らなかったのだから。あの時きちんと答えられていたら、こんなことにはならなかったのか…)



カメリアを想う。



名前は…カメリア。


好きな色は…。


好きな花は…。


好きな料理は…。


好きな季節は…。


好きな小説は…。


好きな場所は…。



何も知らない。おかげで、彼女に何をしてあげたら喜ぶのかわからない。

これまでは他人に興味が全くなかった。美しい自分を眺め、美しい花を眺め、美しいドルチェを眺め、美しい王妃の顔を眺める…。


(王妃の顔を見る…、それだけじゃないな。彼女の笑顔で胸が熱くなる。彼女の声はとても心地良い。彼女の寝顔は愛らしく、肌も髪も滑らかで私が触れたら傷付けてしまいそうで怖いくらいだ。彼女と食べる料理は最上級に美味しい。彼女といると私は充実している。彼女とずっと側に居たいのに…)




「やはり、直接会いたい!」



立ち上がると王妃の私室に向かった。

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