第4話 カメリアの事情

カメリアにも事情があった。


カメリアはフルリール王国の次女として生まれた。フルリール王国は大陸に位置し周りを3国に囲まれている。その内の1つであるグリシーヌ帝国との親交のため子息子女が同時期に生まれた場合、その二人を婚約させる取り決めとなっていた。数年早く長男と長女を授かっていたフルリールは次女を授かると、グリシーヌに待望の男子が生まれた。この皇子ロテュスとカメリアは許嫁となり、後に正式に婚約を交わした。


カメリアの未来は決められている。隣国グリシーヌに嫁ぎ皇太子妃、そして後の皇后となり、グリシーヌの国母となるのだ。その為、幼少から王女教育から始まり皇太子妃教育を受け、自国と隣国の言語を4ヵ国分習得した。この4ヵ国は小競合いがまだまだ続いており、フルリールとグリシーヌ両国の友好の架け橋となると国民は2人の結婚に期待した。


ところが、カメリアとロテュスが18歳を迎えグリシーヌ帝国内で成人を祝う夜会の最中、ロテュスが高らかに婚約破棄を宣言したのだ。理由は真実の愛を育んでいたからだそうだ。ロテュスは横に平民の女性であるアイリスを携えており、この人こそが真実の愛であると訴えたのだ。カメリアをはじめとしたフルリール王国の衝撃は計り知れなかった。グリシーヌ帝国の皇室も寝耳に水だったようで夜会を中断させた。皇太子の裏切りにフルリール国王は激怒し友好条約は白紙となった。カメリアをフルリールに連れ帰ると事情を知った国民は憤った。カメリア王女はグリシーヌ帝国との友好のために完璧に育て上げられた国民自慢の王女で『フルリールの花姫』と呼ばれていたからだ。フルリール国王夫妻はカメリアに寄り添うと今後は国に縛られることはないと自由に過ごすことを許可した。愛する国王夫妻のお膝元でゆっくり過ごすことを考えていたカメリアにまたしても災難が訪れる。ロテュスがもう一度婚約したいと王宮まで押し掛けてきたのだ。


夜会でのロテュスの行いはグリシーヌ帝国皇帝の怒りを買い廃太子となり、次男が立太子したのだ。フルリールの王女と結婚し両国に友好をもたらすという役でしか役にたちそうになかったロテュスは、婚約破棄した今では帝国に不要であった。地位も名誉もないロテュスへの愛は消えたのかアイリスも姿を消したという。ロテュスはもう一度自分の価値を見直し、再び独断で行動したのだった。


ロテュスの行いは再び処罰され、今ではグリシーヌ内で幽閉されている。しかし両国間の緊張が高まってしまい争いに発展しかねない。非はないが事の発端であるカメリアは身を守る為国外へ行くよう指示された。国はカメリアが選んだ。世界情勢を学んだ時から気になっていた孤島の国リブロン王国だ。大陸の中で隣国に囲まれて小競合いが絶えないフルリールと違い、孤島であるが故争いとは縁がない国と言われていた。カメリアは留学を目的としリブロン王国の公爵家が後見人となる形で侍女のリラを連れて渡航したのだった。


後見人となってくれたティユル公爵夫妻は子供がいなかったこともありカメリアのことを心から歓迎してくれた。完璧な王女であるカメリアは1年もすると語学はほぼ習得し、公爵夫妻と優雅な日々を暮らしていた。そこに王宮で開かれる王太子の20歳を記念した誕生祝賀会の知らせが届いた。招待でなはなく参加は自由だという。リブロン国外の王女であるカメリアは小さいパーティーへは公爵夫妻に帯同させてもらったことがあるものの、王家のパーティーには参加したことがない。是非行ってみないか?と誘われ赴いた結果、リブロン王国の国母となるのである。


婚約破棄された王女であり、現在も緊張状態の大陸情勢を鑑みると、ここで離縁したとして戻る場所がない。


カメリアは自身がジャレッドにとって観賞用であることは承知していた。だからこそ嫌われないように、少しでも好かれるようにと行動していたが、体調を崩すほど無理をすることはなかったのだ。食事はいつも一緒に摂ろうと提案されていたが、倒れて顔に傷を作り自分の立場を苦しめるくらいなら、断れば良かった。


薔薇の花に罪はない。ジャレッドはカメリアによく薔薇の花束をプレゼントしてくれる。ジャレッドの中で1番の花は薔薇なのだ。他に選択肢はない。花束も王宮内に飾られてる花も、他の花に変えてほしいとはとてもじゃないが申し出ることはできなかった。

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