第21話 田舎には、よく帰る?

 オレたちは、海の家で休む。ああ、ラムネがキンキンに冷えてやがる!


「海の家って言ったら、ラーメンだろ!」


「わたしは、カレーかな」


 各々注文をして、畳の間に着席した。


 オレのラーメンは、いわゆる中華そばだ。メンマと薄いチャーシュー、ナルトが乗っている。シンプルな見た目なのに、やたらと誘ってきやがる。

 夢希ムギの頼んだものは、いわゆる具がゴロゴロした田舎カレーだ。こっちも、いい香りが漂う。


「それもいいな。じゃあ、いただ……あっ、ちょっとまって」


「どうしたの?」


「シェアしよう」


 オレは、店員を呼ぶ。


「すいません。小皿を」


 オーダーすると、店員さんがお椀を二つ用意してくれた。


「これでシェアできるな」


「あーん、でよくない?」


「た、たしかにな。でもラーメンやカレーであーんって、難しくねえか?」


 麺はビローンって、伸びるからな。あーんとかは、ちょっとやりづらかった。絵面的にも、見栄えが悪い。


「これがお前の分な」


「ありがと。うわあ、おいしそう」


 ラーメンもカレーも、どっちもうまそうだ。


「足りなかったら、言ってくれ」


「そんな食いしん坊じゃないし。はい。カイカイの分」


「ありがとうな。じゃあ、いただきます……おおおおお!」


 うめえ! 超絶に雑な味付けなのに、マジでうまい。


「どう?」


「うまい!」


「ホントに? じゃあ、いただきます! はむ……うーん!」


 夢希の顔がほころんだ。


「カレー最高」


「ラーメンも、なんか独特だぞ」


「ホント?」


 小鉢をもって、夢希がラーメンをすする。


「いいだろ?」


「うん! おいひい。しかも、なんか懐かしい!」


「そうなんだよ!」


 こんな昭和臭がする昔ながらの中華そばって、食ったことがない。そのはずなのに、なぜか食べたことがあるような気がしてくる。インスタントでも、似たような味付けのものはもちろんある。だが、この味には到達できないだろう。


 本格的とはいい難く、素人感は満載だ。しかし、これはこれで完成しているんだよなあ。


「カレーも食べてみて。いい感じだから」


「おう……うんうん! 言いたいことはわかる! なんとも形容しがたいうまさだわ、たしかに」


 コクが、ハンパねえ。チェーン店ほど整っていなくて、専門店ほどパンチが効いているわけでもない。しかし、なんだろう? この店でしか食えないうまさがある。 


 たしかにどちらも、専門的な味には程遠い。

 海の家の料理は微妙、と言われている。


 だが、このうまさはなんだ? 日の当たる場所で食ってるからうまいって次元を、この料理ははるかに超越している。


「ごちそうさまでした! と思うだろ? まだあるぞ」


 ジャン! の掛け声とともに、かき氷を用意した。オレはシンプルないちごで。夢希はメロン味だ。もちろん……あーんで食べさせ合う。


「では、お互いの質疑応答、ってのをやってみる」


 よく考えたら、動画であまりお互いに干渉しなさすぎなんだよな。


「というわけで、始めるぞ」


「カイカイは、田舎には、よく帰るの?」


「たまにな。お葬式があるときくらいかな」


 あとは両親が、法事に顔を出す程度である。


 父方と違い、母方の親戚は、あまり金にがめつくない。とはいえ、オレたちの家からは遠すぎる。なので、自然と足が遠のいちまった。


「ぶっちゃけ、こんなチャンスがなかったら、まあ帰らないだろうな」


「海いいなあ。海産物おいしそう」


「ぜひ食べて帰ってくれ」


「ありがとー」


 続いて、夢希の番だ。


「ムゥの実家の田舎って、どんな感じなんだ? 答えられる範囲で頼む」


「えっとねえ……山の方」


「そうか。オレが海の方だから、ちょうど反対側だな」


 夢希はオレにだけわかるように、ジェスチャーをする。「わかるでしょ?」って感じで。


 オレも声に出さず、「なるほど」とうなずく。だいたいの場所はわかった。日本一高い山がある場所だ、ってことくらいは。


「ふたりとも、田舎から都会に出てきて、そこで知り合って、わたしが産まれたの」


「おんなじ田舎だったんだな?」


「そうそう」


「毎年、帰るのか?」


「うんうん。キャンプで山を見に行くの。登らないけどね」


「おう」


 絶景なんだろうな。口には出せないが。

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