第19話 雨と弁当

「どうしたの快斗カイト……ふひゃああああ!」


 小さく悲鳴を上げて、夢希ムギが透けた胸を隠す。オレにタオルを投げつけた。


 だが、オレには水色のブラがくっきりと脳に焼き付いてしまっている。


 服の雨水を、夢希はタオルに染み込ませた。



「はあ。ごめん。コンビニに誘っていなかったら、早く帰れた」


「いや。いいんだ。コンビニに立ち寄っていなかったら、ビニールシートを敷いて座るタイミングで雨にやられていた。ファインプレーだ」


 落ち込む夢希を、オレはフォローする。


「わたしの学校は、いわゆるお嬢様学校で、学問以外には力を入れていないの」


 塾がそのまま学校になったそうで、進学率の高さから保護者に人気だそうだ。とはいえ、生徒からの評判はよくない。修学旅行や文化祭などはあるが、公立高校かと疑うほど華がないという。


「その代わり、学校の外では特に厳しいルールとかはないんだ」


 学校に迷惑をかけたら、即退学になるらしいが。


「クラスメイトたちが彼氏とああした、こうしたという話を聞く度に、うらやましさが募ってさ」


「学内恋愛は、アリなんだな?」


「反対しているのは、親御さんだけだよ。さすがに教師と交際していた子は、退学になったけど」


 どうせ生徒のことは止められないと、学校は黙認しているという。

 校則でがんじがらめに縛らない代わりに、学業で成果が出なければ退学させるのだ。


「だからみんな、本気では交際できないんだよね。かなりの点数を要求されるから」


「すごい学校だな」


「でもわたしは、配信もデートも、学業もがんばりたい」


「そうか。ありがとうな。でも、ムリはしないでくれ」


 オレのせいで勉強が遅れたなんて、こっちも辛い。


「ヤバいと思ったら自粛する。だから、いつでも言ってくれよな。ただ、勉強を教えられないけどな!」


 冗談を言うと、夢希はアハハと笑った。


「こちらこそ、ありがとう。お弁当にしよ」


「そうだな。緊張していたら、腹が減ってきた。服は問題ないか?」


 Tシャツの透け具合をチェックして、夢希が親指を立てる。

 スマホを木製のテーブルにおいて、動画をスタートさせた。


「よおカイカイだ。さっそく弁当を食うぞ。今日はあいにくの雨だから、屋内で食わせてもらう」


 まずは、卵焼きを。


「うん、ま!」


 つまみ食いをガマンした、甲斐があった。これは現地で食って正解だ。うまさが異次元を超えている。作りたてを数時間置いていたから、味がジュン、と染み込んでいた。


「ムゥ、タコウインナーなんて、いつの間に作ったんだ?」


 楊枝に刺さったタコウインナーを、オレは口へと入れる。うまい。焼き加減がカリッカリだ。


「カイカイが、フルーツの盛り合わせをやってるとき」


「あんときは、ゾーンに入っていたからな」


「ゾーンって。その集中力は、勉強に活かそうよ」


「勉強にいかないからこそ、毎日が楽しいんだって」


 オニギリを口へ含みながら、夢希と楽しい一日を過ごす。昆布が最高にいい。


「うまかったぁ。ごちそうさ……ん?」


 気がつくと、空がすっかり晴れていた。


 フルーツは、三時のおやつまで取っておく。


「ムゥよ、雨上がりの空は、気持ちいいな」


「ホントに」


 屋根付きのベンチを出て、今度こそ草むらにビニールシートを敷いた。

 シートに寝そべって、食後の昼寝を。


 雨が上がったからか、他の利用者も公園に集まってくる。


 子どもより巨大な犬が、夢希を覗き込んだ。飼い主のおばあさんが引っ張っているが、犬はズンズンと夢希に迫る。


「お、おっ! おひょひょ!」


 でかい犬に、夢希が顔をベロベロとなめられた。


「愛されてるな、夢希」


「そうみたい! おひょひょ! よーしよしよし」


 犬を撫でで、夢希は犬と飼い主に別れを告げる。


 フルーツを食べて、お開きとなった。


「楽しかったな、今日は」


「帰ったら、中華ね」


「待ってました!」


 

 期末試験と終業式を無事に終えて、いよいよ合宿の日を迎える。

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