第18話 本格的デート配信

 日曜日、オレたちは家の中で撮影をしている。


「よ、よお、カイカイだ」


「ムム、ムゥだ……」


「えーっと今日は、今日はな、ちゃんとしたデート動画を撮ることになった」


 土曜日は、買い物がメインだった。事務用品なら、星梨せいなおばさんの会社で余った物を用意してくれるという。「アウトレットで揃えるくらいなら引き取ってくれ」と、会社から言われたらしい。


 なので、お金が余ってしまった。


 そこで急遽、「まともなデートをしてきなさい」と指令が下ったのである。


快斗カイト、ちゃんとしたーデートって何?」


 夢希ムギから、もっともな質問が飛んできた。


「そんなこと、デートダメ勢なオレに聞かれてもわかんねえよ」


 外に出て何をするか、アイデアが浮かばない。


「もうすぐ期末だから図書館で勉強、というわけにもいかんよな?」


「それはデートとは言わないって、言われそう」


 だよな。第一、図書館で撮影とかもムリだしな。


 かといって繁華街なんかで動画を撮ろうものなら、トラブル待ったなしだ。誰の許可取っとんねんなんて因縁をつけられたら、逃げるしかない。炎上案件になる。


「撮れるところとしたら、公園くらいか」


「じゃあ、ピクニックしよ」


「いいな! 今日はちょっと涼しいから、外で弁当を広げるのもいいかもな」


「では、お弁当作ろ」


「おう、一緒に料理をするぞ」


 ようやく、動画映えしそうなネタができあがったぞ。


「サンドイッチタイプとオニギリタイプがあるけど?」


「夢希はどっちがスキなんだ?」


「どっちも独特の味わいがあって、好きだよ」


 ならば、オレが選択したほうがよさそうだ。


「オニギリだな」


「じゃ、和食メインで。まずは、唐揚げを作るぞー」


 冷蔵庫の余り物から、夢希は鶏モモを出して切っていく。


 その間に、オレは米を炊く。洗い物が出たら、せっせと洗った。


「ミートボールは、レトルトを使うね。あとはなにが欲しい?」


「卵焼きがいいな」


「甘いやつ? しょっぱいの? ウチはしょっぱいんだけど」


「しょっぱいのだな。ウチと同じだ」


「OK~」


 塩気のある卵焼きを、夢希はネギと一緒に巻く。


 オレは洗い物をしつつ、フルーツの盛り合わせを作った。リンゴをウサギ型にカットして、パイナップルと巨峰を敷き詰めた容器に収める。


「最後は、オニギリを作るぞ」


「たわらと三角、どっちがいい?」


「三角だ。オレはそれしか握れない」


「わかった。一緒にやろう」


 夢希と二人で、オニギリを作った。かつお節を混ぜたもの。ツナマヨ、梅干し、昆布と。


「チャーハンとか肉巻きおにぎりとかあるけど」


「悩ましいな。チャーハンは夕飯にしよう! オレが作るぞ」


「ありがとう。じゃあお願いするね」


「任された。よし、完成だ」


 余りは星梨おばさんの分にして、別の皿に盛り付けておく。


「これで、お金をつかわなくてよくなったな」


「材料費だけもらえたらいいね」


 オレはバスケットに保冷剤を詰めて、容器を詰め込む。上にタオルで巻いた保冷剤を乗せて準備完了だ。


 今日の夢希は、白いTシャツにデニムのショートパンツである。動きやすいように、スニーカーにしていた。ダメージジーンズとか、オレを殺す気か?


 オレはTシャツの色は夢希と同じだが、黒のデニムにしている。


「じゃあ、出かけるか」


「待って。夕方から雨が降るって書いてる」


 スマホで、夢希が天気予報をチェックする。


「そのへんの公園で食うだけだから、特に問題ないだろう」


「だといいけど」


「じゃあ、ピクニックに行くぞ」


 念のため、傘も用意しておいた。これで、平気だろう。


 そのへんを歩くだけなのに、結構な汗が出てきた。


「持とうか?」


 パラソルを持った夢希が、手を差し伸べる。オレは夢希に、水筒しか持たせていない。


「いやいや。荷物が重いからじゃないんだ。暑いな」


「じゃあ、こうしよう」


 夢希が、オレに近づいてきた。日傘に入れてくれる。


「これいいでしょ? 日傘にもなる、雨傘なんだよ」


 動画で紹介しようとして買った、便利グッズらしい。しかし、夢希のグッズ紹介系は、あまり再生数が伸びていなかった。プレゼン上手な配信者には、負けてしまうようである。


「ああ、ありがてえ」


「近いっていっても割と距離あるからさ、コンビニ行こうよ」


「だな。アイスでも食うか」


 コンビニで、棒アイスを買ってもらった。


「はい、快斗、あーん」


 バリバリ食べるチョコ棒アイスを、夢希に差し出される。


「あーん」


 大きく口を開けて、オレはアイスにかじりついた。


「うまい。でも、開けただけでもう溶けちゃってるな」


「あはは。うける」


「なにが」


「口の周り、チョコだらけなんだけど」


 バッグからハンカチを出して、夢希がオレの口を拭く。


 なんか、すっごいデートって気分だ。



 しかし、オレのホホに不穏な水滴が。



「雨だ!」


 公園にたどり着いた途端、ザーッとひどいゲリラ豪雨が降り注ぐ。


「ぎゃー!」


「快斗、あっちに屋根がある!」


 屋根のあるスペースまで、避難した。


「すごかったね」


「ああ、すごふ!?」


 夢希のTシャツさまが、透けていらっしゃる!

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