第17話 デートの後の撮影会

 その後、オレと夢希ムギはたこ焼きを購入した。フードコートでドリンクを買い、たこ焼きを開ける。おやつタイムが終わっているためか、フードコーナーは案外空いていた。


「いくよ。快斗カイト。あーん」


「あーん」


 ようやく、カップルらしいことをしたような気がする。こういうことをするために、自宅領域の外に出たんだからな。この付近なら、クラスメイトとも会うまい。


 夢希のたこ焼きが、オレの口に入る。


 この上ない、最高の時間だ。


「うがっ!?」


 思いの外、たこ焼きが熱くなければ。


「あふあふ!」


「快斗、大丈夫?」


「平気平気。よし、飲み込んだぞ」


 半分涙目になりながら、オレはたこ焼きを食い終える。


「今度は、オレな。あーん」


 たこ焼きを楊時に刺して、夢希の口へと運ぶ。


「あふん。ん! 確かにあっつい!」


 口をおさえながら、夢希がホフホフとたこ焼きを噛む。かわいい。


「んふんふ。おいひい」


 たこ焼きの味がわかるくらいには、冷めたようだ。夢希が笑顔になる。


「夢希って、たこ焼きが好物なんだな」


「好物というより、誰かと食べたいのがたこ焼きかなって」


 買い食いがしたいという憧れも、あったらしい。


「そうか。夢は実現できたのかな?」


「最っ高」


 さらにオレたちは、フードコートにある丸型ドーナツ六個入りを買う。色んな味を楽しんだ。


「今度、やってみたいゲームとかはあるか?」


「動画配信が関係ないゲームは、遊んでるよ」


「どんな?」


「古いRPGが、セールで売ってるの。サイトで買って、ノートPCで進めてる」


 聞くと、オレじゃなくても知ってる王道RPGの名前が出てきた。


「あれは最高だよな。オレの親の代から存在する名作らしいし」


「スマホ版もあったんだけど、PC版が出たからやってみた。サクサク進めてオススメだよ」


「おお。いいな。そうやって息抜きしてるんだな」


「快斗は?」


「縦型シューティングだ。夢希と暮らす前は、そればっかりやってた。ウチに夢希が来てから、ようやくパーティゲームを楽しめるようになっていったな」


 雑談をするオレたちだが、学校は話題にしない。学校にたいして、思い入れがないからだ。


「その、さ。配信が関係なかったら、どんなデートがしたい?」


 夢希から、唐突に質問が飛んできた。


「そうだな。もっと静かな場所で会話がしたい。会話できなくても、そばにいてほしいかな?」


「うんうん。一緒に映画でも見る?」


「だな。帰ったら、二人で映画でも見るか。涼しい部屋で」


「あー。今はダメ」


「どうして?」


「帰ってからの、お楽しみ」


 なんだろうな? 家で用意している催しでもあるのか?


 ナポリタンを買って、家に帰ってきた。


 星梨セイナおばさんを一人残して外食はできないと、オレたちは三人分のナポリタンを買って帰ってきた。



「おかえりなさい!」


「ただいま、おばさん。はーあ。涼しい!」


 玄関を開けると、さっそくエアコンの恩恵を受ける。


「じゃあ、夕飯にしようか?」


「そうだな。ちゃんと買ってきたから」


「わお! 白ナポもあるじゃん!」


 白いナポリタンとは、ニンニクと塩の効いた独特のナポリタンだ。明日は日曜日なので、匂いを気にしなくていい。


 他にはレギュラーのナポリタンと、カレー味がある。


「どれが好きかわからないから、全種類買ってみました」


「いただきまーす」


 三種類のナポリタンを小皿に分けて、三人でシェアし合った。


「うん! 白ナポうまー」


 星梨おばさんは、お箸で白いナポリタンに食らいつく。


 たしかに、うまい。トッピングのベーコンとの相性も最高だ。


「明日は人と合う約束はねえよな?」


「ないない。明日はオフにしようか。動画もある程度、集まってきたし」


 小出しにしながら、動画合宿に備えるという。


「基本は毎日投稿して、様子見かしらねー」


 動画のできが悪くても、毎日露出し続けることが大事だと、星梨おばさんは主張した。 


「はあ。おいしかった」


 お腹を擦りながら、星梨おばさんは缶のジンソーダを平らげる。


「じゃあ、撮影会をします」


 急に、夢希が浴室へと引っ込んだ。


 まさか、風呂を撮影しろとか言い出さないよな? 夢希のことだから、その可能性は低い。


 数分後、オレが選ばなかった水着を着て、キッチンに現れる。競泳水着だ。


「ささ快斗、撮影して」


 ポーズを取りながら、夢希が催促してきた。


 星梨おばさんが、満足げな笑みを浮かべている。


「さては、余分に金を渡していた理由はこれか?」


「ふふーん。抜かりはありませんわよ」


 昼飯代やおみやげ代にしては、やたら高額だと思っていたが。


「水着は、ウチの備品! 撮影機材です!」


 あくまでも経費だと、星梨おばさんはいい切る。


 夢希は一旦退場し、バンドゥという、肩ヒモがないタイプのビキニに着替えてきた。JKの粋を超えている。


 気がつくと、おばさんもバンドゥに着替えていた。事前におニューの水着を、夢希に選んでもらっていたらしい。肉付きのいい夢希と違って、おばさんはスレンダーである。ショートカットだから、ややボーイッシュとも言えた。


「これも、動画にするのか?」


 スマホで夢希を撮りながら、オレは質問をふる。


「ある程度は。でも、お気に入りは」


 夢希がウインクをした。


「個人用でいいよ」

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