第16話 水着選び

 水着売り場に到着する。


 どうしよう。注射を打つよりドキドキするぜ。


 夢希ムギは、平然と際どい水着をチョイスする。女子と一緒に水着選びなんて、男子にとっていかにヤバいイベントかも知らずに。


快斗カイト、選び終わった」


「う、うむ」


「三着買ったから、その中から選んで」


「わかった」


「じゃあ、更衣室に入るね」


「おう」


 機械的にしか、返答ができない。


 衣擦れの音が、聞こえてくる。


 いつもなら、隣の部屋で着替えられても何も感じない。壁やドアでしっかりと、音が遮られているからだ。


 それに同居しているにもかかわらず、これまでラッキースケベ的な展開なんて起こりえなかった。着替え中に、ばったり出くわすこともない。オレが風呂場に突撃されたのは、先日の動画に上がった。だがオレの方は、夢希の入浴中にうっかり突撃することなどない。


 オレと夢希は、配信以外ほとんど行動パターンが違う。夢希のほうが合わせてくれているのではないかと思うほど、大きい事故は起きていない。こちらのパターンが読めているのでは、とさえ感じた。


 しかし、今は違う。神経レベルでビリビリと、夢希を意識せざるを得なかった。


「おわった」


「ひゃい!」


 変な声で振り返ると、花がらビキニ姿の夢希が姿を現す。


「んぐ」


 ヒモ! ローライズ! あら~っ! 


 全体的に際どいが、布面積は広い。パレオ付きなので、多少の露出も押さえられる。


 うなずきながら、サムズアップを繰り返す。


「じゃ、次」


 オレのリアクションがお気に召さなかったのか、夢希はすぐにカーテンを閉めた。再び、衣擦れの音が。


「できた」


 続いて夢希は、際どい黒ビキニで登場した。ブラジリアンビキニ、というタイプらしい。


「アンダーがVの字になってるのが、特徴ね」


 ヘソの下をツンツンと指差し、強調してくる。胸の辺りも、かなり面積が小さい。

 めちゃくちゃうれしいが、若干攻め過ぎのような……。


「わかった。OKだ」


「じゃあ、次ね」


 夢希がまた、サッとカーテンを閉めた。


「これで最後」


 ラストに夢希は、王道の白ビキニで現れた。


「おおおおお」


 布面積もヒモの太さも、さっきの花柄ビキニの方が際どい。しかし、なぜか今の方がかわいさもセクシーさも増している。花柄だと、いやらしさが弱まってしまうからだろうか。


 白い生地に、夢希のバストがすっかり収まっているのが、最高にいい。よく胸がはみ出ている極小ビキニのイラストなどがあるが、オレにしてみればあれは邪道だと思う。バストを支えている感じがしないのだ。


 オレは華やかさやエロチックさより、こういった清潔感のあるエロスのほうが好きなのかも。


「これだね」


 夢希は即決し、服に着替えた。水着とは別に、ヘソの上で縛って着るタイプのブラウスと、デニムのホットパンツをカゴに入れる。


「快斗の分は?」


「オレはもう決めた」


 グレーの単色でアロハ柄の短パンと、同色のラッシュガードだ。オレは露出しないから、これでいいだろう。


 オレと一緒に、会計へと進む。


「よくそんな格好を、三連続も続けられるな? 照れとかなかったのか?」


「他人に対しては、全然」


 人の視線は、夢希の目には入らないらしい。


「でも、快斗がなにを好きか、視線でわかった。それが恥ずい」


 なにもかも、全部バレていたのか。目は口ほどに物を言うのは、本当らしいな。


「もっと布面積が小さくて、局部しか隠せてない水着もあったよ」


「そうなんだよな」


「でも、全然そっちに目線が行ってなかったもん」


 やっぱりだ。夢希には、すべてお見通しだった。


「とりあえずわかったのは、快斗はグラビアアイドルがするみたいな水着より、女の子が普段使うような水着のほうが好みなんだなって」


 おっしゃるとおりでございます。


「一応、他の水着も買ったので、ファションショー動画は撮るね」


「肌色が濃すぎると、動画サイトから待ったがかからないか?」


「そのためのパレオだったりするので」


 なるほど。

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