第三章 デート? 違う! 遠出だっ!

第13話 エアコンを買いに

「よお、おひとりさまYouTuber、カイカイだ」


「よお、わたしはおひとりさまYouTuber、ムゥだ」


「今日はな、ムゥと一緒に電気街まで出ているぞ」


 ちなみにデートではない。これは遠出なんだ。


「実を言うと、エアコンがぶっ壊れたんだよね」



◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆


 

 梅雨の頃になって部屋の大掃除を始めた。その際にエアコンの試運転をしてみたのである。

 そしたら、スン……と動かなくなったではないか。しかも、すべての部屋が、だ。


 星梨セイナおばさんから事情を聞いたら、「家が築三〇年だが、エアコンも築三〇年だった」らしい。特にオレたちが使っている子ども部屋がひどく、子どもたちが自立してから電源を抜いていたという。まったく稼働していないため、ホコリが溜まりまくっていた。


 しかしリビングのエアコンは、まだ多少は動く。前の住人が退去するギリギリまで、通電していたからだろうか。


 日本のエアコン、丈夫すぎだろ。


 だが、電気代などのコスパが悪すぎる。


 そこで、すべてのエアコンを買い替えることにした。


 店内映像などを映さなければ、外での動画撮影は大丈夫だろうとのこと。あくまでも、オレたちだけを映す。


 では、家電量販店へ。


「ネットで買ったほうがおそらく安いよな?」

「配送や、掃除などの専門的なアフターケアを考えると店で買うべきかなーって」


 オレの意見に、おばさんは言う。


「それにさ、デート場面を撮りたいじゃん?」


 大本の目的は、それか。


「言っておくが、遠出だからな。デートではないから!」

「はいはい。快斗カイトの意見を受け入れるわ。じゃあ、行きましょうか」


 電車を乗り継ぎ、電気街へ。

 なぜか、先にオレだけが「先に行っておけ」と言われた。


 

◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆


 

 ひとまず、エアコンだ。

 撮影を止めて、量販店へ。


「あー。電気街に来ると、帰ってきたって感じがするわねえ」


 同感だ。ここに降りてくると、ホームグラウンドに来たって印象を受ける。


「それより快斗、いうことがあるんじゃない?」


 星梨おばさんが、夢希ムギの方に視線を向けた。


 オレはなるべく、見ないようにしていたのに。


 今日の夢希の衣装は、眩しすぎる。


 下は黒のミニスカートと白タイツを合わせて大胆に仕上がっていた。なのに、上の露出は控えめで上品と、オタクを殺しに来ている。


 グラビアアイドルがよくやる、アンバランス系の衣装だ。


 心なしか、夢希も楽しそうに見える。


「なにか、言ってあげなさいよ。この日のために、夢希ちゃんと一緒に服を選んだんだから」


「そうなのか?」


 夢希が、外で動画を取りたかったなんて。


「靴も新調した。似合う?」


「ああ。似合いすぎているくらい、いい感じだ」


「もっと言うことある」


 モジモジしながら、夢希がクルクルと回りだす。


「……おお。かわいい、な」


「うん。ありがと」


 ウキウキしていた夢希の、目が泳ぎだした。


「快斗もいい感じ」


「そ、そうか?」


 実はオレの方も、星梨おばさんに言われて外用の服を着ている。それが、給料アップの条件だった。いつも着ている変Tは、封印である。雑誌などを切り抜いた写真を送信してもらい、それに沿ってコーディネートした。


 追求するのは、とにかく清潔感のみ。変な冒険はしない。


 星梨おばさんからのアドバイスを守り、地味だが小綺麗な格好をチョイスしたつもりだ。


「まああんたにしては、上出来じゃないかしら?」


「そうか? オレは何を着ても、かっこよくならないと思うんだが?」


「自分を低く見ない。あんたはタッパがあるんだし、それなりよ」


 もっと自分に自信を持てと言うが……。


「快斗、似合ってる」


「ありがとうな」


 夢希にまじまじと見られると、顔が熱くなってきた。


「と、とにかく店に入ろう。暑い」


「そうね。じゃあ夢希ちゃん、行きましょ」


 オレたちは、目の前にある大手カメラ屋へ向かう。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る