第14話 突然、二人きりに
エアコン売り場に到着した。
「あー涼しい。ここに住みたい」
背伸びをしながら、
「いや、住むとかありえんだろ。なあ
「たしかに涼しいけど、さすがに」
オレも夢希も、冷めた反応を返した。
今なら多少、安く買える。本当はモデルチェンジの時期な一〇、一一月か、二、三月あたりが一番安いのだが。
セールが始まっていて、よかった。
子ども部屋用のを二台、リビング用のを一台購入する。
「寝室用は?」
「いいや。寝室は使ってないのよね」
テレビがないため、寝室では寝ないという。
リビングのソファベッドで寝ているのは、そのためか。
オレたちのベッドも、一階の寝室にあったものを流用している。
「テレビつけっぱなしで、寝てるもんな」
「部屋が暗くて静かだと、調子が狂うのよ。フリーター時代が、夜型だったからかも」
経営者になった後も、この習慣は捨てられないそうだ。
「ごめんなさい、ちょっとお手洗いに」
夢希が、手洗いコーナーへ。
「ミニスカなんて穿いているから、冷えたのかな?」
「バカね。わからなかったの? 汗で取れたお化粧を直しにいったのよ」
星梨おばさんに言われるまで、夢希が化粧をしていたことさえ知らなかった。
「悪かった。ちゃんと見てやろうと思う」
「その意気よ。女の子はちょっとした変化も、見逃してほしくないからね」
オレと話をしながら、おばさんは会計を済ませる。
「じゃあ、配送の手続きを済ませておくから、二人はゆっくりしていきなさいな」
「いいのか?」
「年寄りは、デートの邪魔でしょ?」
「ブホ!」
あまりに唐突な発言に、オレはむせてしまう。
「大丈夫、
心配して、夢希がオレに声をかけてきた。トイレから帰ってきたばかりで、さっきの会話は聞いていなかったようだ。
「買い物が終わりだから、あとは自由時間にしろってさ」
適当にごまかす。
「なにか欲しいものはある? ノイズキャンセラーつきのヘッドホンとか、ゲーミング関連とか」
早い話、買い物がしたいのは星梨おばさんだ。オレたちは付き添いである。なので、多少のわがままは聞いていいとか。
「お給料も出したでしょ?」
「それはいいが、ゲーミングって、配信に役立つのか?」
「ゲーム配信をするなら、いいかもね。でも撮影するだけなら、ちょっとオーバースペックかも」
ゲーミングチェアは快適だが、オレたちは雑談配信などをするタイプではない。長時間椅子に座る作業はほぼないのだ。たいていの作業は、リビングにあるこたつテーブルで事足りる。
とにかく、オレたちの給金では、ゲーミングアイテムなど手が届かない。
「作業関連の品物は、オフィス仕様のものをアウトレットで買おうかと」
量販店でも買えるが、アウトレットを使ったほうが丈夫でポイントつけるより安いかもと、夢希が提案した。
「いいわね。じゃあそっちにも行きましょ……?」
急に話を止めて、おばさんが店員と話し合う。
「快斗、今から二人きりでお買い物してきなさい」
オレたちは、買い物にしてはやや多めなお金を渡される。
「どうしたんだ?」
「実は即日設置できるみたいでね。エアコンが工事完了するまで、帰ってこなくていいわ」
「マジか?」
「お夕飯も、食べて帰っちゃっていいから」
どうも、うちのエアコンはすべてこの電気店で買ったものらしい。下取りもして、即日にセッティングまでしてくれるという。
「朝早くお買い物してよかったわ。じゃああたしは先に家へ戻るわ。二人は楽しんでらっしゃい」
続いて動画について、オレたちに釘を刺す。
「外で動画は撮っていいけど、お店の中はダメよ」
「わかってる」
事前に許可がいるんだよな。
「お昼は適当に、この辺で買って済ませるわ。あたしの分のおみやげ、買ってきて。そのお金で」
「はい。テイクアウトの夕食を買ってくればいいんですね? リクエストはありますか?」
「ナポリタン、大盛り!」
ああ、昨日見ていた大食い動画の店か。あそこはボリューミーで、味も濃いんだよな。
「承知しました。何時頃にお届けでいいですか?」
「一九時!」
これだと出前アプリと変わらないが、夢希はリクエストに対応した。
夕食は、ナポリタンに決まりだな。
「一八時半に、夕食な。で、出前を頼むと」
それまで、デートをするのか。
「あとムギちゃん、そのお金で何を買うべきか、わかってるわよね?」
「ビジネスアウトレットの備品ですよね?」
「違うでしょ? それはまた、今度にしましょ。あたしも見に行きたいし。それよりも男子と二人で買いに行くものが、あるはずよ。あなたには」
お金を握りしめながら、夢希がうんとうなずく。
「なにを買いに行かせようとしているんだ、おばさんは?」
「バカね。期末試験が終わったら、動画合宿をするのよ。海で」
動画の合宿とか、パワーワードすぎるな。
「オレたちに、何を買いに行かせようとしているんだ?」
「決まってるでしょ? 浴衣と……」
おばさんが、オレの耳に顔を近づけた。
「水着よ」
「み、みみ」
水着だと?
「殿方であるあんたが、ムギちゃんの水着を選んであげるの」
なにその、ムリゲーミッション!?
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