第11話 お背中流しドッキリ

 夢希ムギがバスタオル一枚の姿になって、浴室に入ってきた。


 撮影係として、星梨セイナおばさんもスマホ片手に突撃してくる。


「何をしに現れた!?」


「なにって、カイカイのお背中を流しに」


「なにごと!?」


「だって、わたしたち夫婦じゃん」


「待て待て待て! バスタオル一枚って攻めすぎじゃね!?」


 この状況はマズイ。非常にマズイだろ。思春期の男子相手にバスタオル一枚でエンカウントとか、事故にしかならない。


 ただでさえ、なにもしていないのにオス度がハッスル状態だ。タコやニンニクの精力アップ効果のせいで。


「大丈夫。ちゃんと危なかったらモザイクかけるし!」


「それでも削除申請が来るぞ!」


 動画サイトは最近、肌色規制が激しくなっているらしい。着物にプリントした「顔」が「肌色」と認識されてアウトになったVチューバーもいるという。顔のアップだと言っているのに、通らなかったのだ。肌色は肌色と、AIが認識してしまうらしい。


「オレの肌色だってヤバない?」


「男性ならOKでしょ?」


「ダメダメ。男の乳首でもアウトなんだから今は!」


 某有名お笑い芸人が乳首にバンソウコウを貼る必要があるくらい、男性の乳首もアウトなのだ。


「ポリコレ!」「センシティブ!」NOエロNOライフ!」と批判の声は止まないが、ルールはルールだ。厳しすぎるぜ動画サイトは。


「まあまあ。泡でごまかすしOKOK。じゃあ、逃げずにお背中を流させて」


 問答無用で、夢希はオレの背後に立つ。


 圧が強すぎる。しかたなく、オレは健康タオルを夢希に渡す。


「じゃあムゥ、ミッションお願いします」


「はい」


 背中に、夢希の力が入ってきた。


 健康タオルなのに、柔らかい。


 オレは普段、全身を健康タオルの摩擦でゴシゴシと洗うタイプだ。


 しかし、これはこれで気持ちがいい。きつく洗うのではなく、泡で汚れを浮かせて落とすのか。これはいいことを学んだ。


「ご気分はいかが?」


「なんか、洗濯物になった気分だ」


「……ちょっと何言っているかわかんない」


「どういえばいいのか。汚れの落とし方にも、様々あるんだなって思ってさ。オレはいっつもゴシゴシタイプでな」


「あー。わたしはそれをやると、皮膚が傷んじゃうから、優しく洗うタイプ」


 なるほどな。女子は肌などに気を使うからな。


「じゃあ、顔とかも同じように洗う感じか?」


「そうそう。時間をかけて」


 夢希の夜のルーティンを知れて、女子のちょっとした秘密を知った気になった。得した感じ?


 いかん、ちょっと興奮気味になってきた。


「!?」


 さらに興奮を誘うできごとが。夢希が、バスタオルを取ったのだ。


「次は、わたしを洗って」


 おいおいおいおい! 冗談も大概にしろっての!


「待てムゥ! いくらなんでもうお!?」


 問答無用で、オレは前を向かされた。


 そこには、スクール水着姿の夢希が。


「ドッキリ大成功~」


 えへへぇ、と笑いながら、夢希がオレのリアクションを楽しんでいる。


 一番笑っているのは、カメラを撮影している星梨おばさんだ。


 だが、オレはすっかり硬直してしまっていた。


「どうしたの、怒っちゃった」


 心配になって、夢希がオレに語りかける。湯気で、メガネがくもっていた。


 赤面している顔を見られたくなかったので、ちょうどよかったかもしれない。


「全然、怒ってない」


 落ち着いてきたところで、オレは夢希のくもりを指で落とす。


「じゃあ、どうしたの?」


 腕を掴んで、夢希がずいずいっとオレを引き寄せてきた。


「いや。その姿はその姿で、めちゃ興奮する」


 風呂の中で水着とかが、いかに背徳的なものか。


 恋人がいる皆さん、一度試してみるといい。


 めっちゃいいぞ。


「せせ、背中流しイベント終了! 今日はお開き!」


 恥ずかしくなった夢希が、バスタオルを巻き直して風呂場から出ていく。


「あ、そうだカイカイ。後で入るから、お湯抜かないでね。社長、ご一緒に」


「いいよ~ムゥちゃん」


 その後、オレがリビングでくつろいでいる間、二人はずっとキャッキャとハシャイでいた。

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