第10話 料理動画、再び

 あれから、オレたちは色々と動画を試してみた。

 その一つが、Tボーンステーキを頼むというもの。

 あれは迫力があって、割と好評だった。といっても、五〇〇再生くらいだが。


「視聴者は、食に飢えているのかも」ということで、今回も料理動画をやってみることに。とにかく今後は、ネタに困ったら料理・食事動画に頼ることにした。


「よお、カイカイだ」


「よお。ムゥだ。今回は、じゃん!」


 たこ焼き器を、夢希ムギがスマホの前に置く。


「ムゥが見せてくれたように、今回は、タコパだ! たこ焼きを焼いていくぞ! たこ焼きなら、女の子でも大量に食べられるだろう。ではさっそく、生地づくりからやってみるか」


 買い物動画も撮ってみるかを、相談してみた。


 相談相手の星梨セイナおばさんからは、ダメ出しを食らう。スーパーで居所が得てエイサれるかも知れないとのこと。また、スーパーには音楽がかかっているので、著作権に触れる恐れがある。なにより、他のお客さんの顔を晒すわけにはいかない。


 で結局、買い物は録画なしで行った。


「というわけで、生地はオレが担当する。ムゥは、具材を切っていくぞ」


「よし。下処理は任せろ。あと、明日は休みだからな。すっごいの作るぞ」


「すっごいのって、なんだろうな。楽しみだ。とはいえ、最初は生地だよな! さて、こねていくぞ」


 生地に、調味料などを入れて下味をつける。ソースで食うから必要ないかもと思ったが、生地に味をつける文化もあるという。


「色々な食い方があって、タコパって面白いんだよな」


「そうそう。だから具材もちょっと代わったものを入れていくぞー」


 夢希が切っているのは、タコの足だけではない。


「お前、ゲソまで切っているのか?」


「そうだぞ。ゲソとタコの味って、変わるのかなって思ってな」


 ゲソって言ったら、そのまま食うかスーパーのお惣菜コーナーにある「ゲソ天」が印象的だが。


「ゲソ天うまいよな」


「あれ、自分でやったら油が飛ぶんだよ。怖すぎ」


 イカは、油で跳ねるんだよな。


「それはそうと、エビとかあるな。タコパで使うにはでかすぎるんじゃねえのか?」


 こんなに具材が大きいと、ひっくり返せないぜ。


「大丈夫。これは別の料理で使うから」


 まだ、なにをするかは秘密らしい。

 あとは生地を焼いていき、刻んだキャベツとネギ、タコを入れていく。


「ホタテとか、ぜいたくだなー」


「これは当たりとして、食おう」


 イイ感じに、生地が焼けてきた。


「ちょっとひっくり返しが甘かったか。歪な形になっちまった」


 でもいいか。この方が、手作り感が出る。


「ではいただきます」


 カリ、トローっという食感が、たまらない。


「生地は薄めに味付けして、味わいはソースだけのシンプルな感じなんだけど、これがまたいいな!」


「焼き加減もちょうどいい。形はともかく。おいしい」


 夢希も、「んふふ」と含んだ笑みで美味しさを表現する。口の中が熱いためか、しゃべれない様子。


 続いて、ホタテを一口。うん。食感はタコの方に軍配は上がる。だがこれはこれで、コクがあるからうまい。というか、一番うまいんじゃねえか?


「ホタテ、いいな。MVPかもしれん。ゲソは、タコとあまり変わらないな。若干硬い感じがするぜ」


「まあまあ、ゲソはゲソで、いい感じの料理になるから」


 といって夢希は、プレートに直接ゲソを打ち込む。エビ、キノコ、トマトなど、たこ焼きに使わなかった具材もドバっと。ニンニクもきかせた。明日学校が休みだからか。


「生地がもうないぜ」


「いいのいいの。ここにオリーブオイルをドバーっと」


 オイルが、熱でプクプクと言い出す。


「はい。アヒージョの完成だ」


「アヒージョなんて、生まれて初めて食べるぜ。いただきます」


 アッツアツのゲソを、オイルと一緒に。


「うんっ……ま!」


 オイルに、海産物の旨味が染み込んでやがる。


「あああああ、これ飲める。この油は飲みたいぜ」


「そうおもってな、フランスパンも」


 バゲットを切って、夢希がオレに分けてくれた。


 さっそくバゲットに、熱いオリーブオイルを染み込ませて。


「飲んでる。このオイルはノドに来るな」


 熱さとニンニクのガッツリさが、ノドを刺激してきた。


 たこ焼きとは違った、深みのある味わいだ。ゲソは、たしかにアヒージョ向きかも知れない。あのグニグニ感は、素揚げ向きなんだろうな。


「いやあ、最高だったな。ごちそうさまでした。みんなもこうやって、食べてみてくれよな。タコパはお一人様でもテンションは上がるし、友だちを呼んでやってみてもいい。楽しみ方は人それぞれだ。じゃあな」


 動画を取り終えて、オレは風呂へ向かう。


 ヤバい。タコのタウリンとニンニクのせいか、頭がギンギンになってて眠れそうにないぜ。


 風呂でさっぱりすれば、多少は疲れて眠れそうだ。

 しかし、オレの思惑は脆くも崩れ去る。さらにオレをガチガチにするハプニングが起きたからだ。


「一緒に入るぞ、カイカイ」


「ファッ!?」


 バスタオル姿のムゥが、防水処理をしたスマホを片手に入浴しに来たのである。


 オレが入っているにもかかわらず。

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