第4話

駅員

「何やってるんですか!?」

男 

「お前らを助けてやってるんだ!」

駅員

「何言ってるんですか!? こっちへ来なさい。」


駅員に取り押さえられ、事務所へ連行される男。




駅の事務所

叫び声を上げた女性と男、男を取り押さえた駅員が座っている。

女性には、中くらいの怪物がへばり付いている。


女性 

「……この人が突然パンチを。」

駅員

「身体の何処に当たりましたか?」

女性 

「いえ、当たってはいないですけど……。」

男性 

「当たり前だ。」

駅員

「どう言う意味ですか?」

男 

「花粉の怪物にだけ当ててるからだ。」

駅員

「はい?」

男 

「……この崇高な戦いは分かるまい。」


男、誇らしげに笑う。

女性、恐怖のあまり泣き出す。


駅員

「……。」

男 

「お嬢さん、未来を守る戦いをしているのだよ。」


怯えている女性。

微笑む男。


駅員

「……落ち着いてください。」

男 

「俺は落ち着いている。」

駅員

「その……。当たってはいないんですよね?」

女性 

「で、でも、ここに拳が来てたんです!」


女性、右の肩周辺を触る。


男 

「当てたりなんてしないよ。」

駅員

「今回は、その、厳重注意、と言う事で……。」

女性 

「そんなの納得出来ないですよ……。」

駅員

「……。」

女性 

「警察呼んでください。」

駅員

「……と言われましても。」

女性

「殴ろうとしたのは確かでしょ!」

男 

「お嬢さん、冷静になって欲しい。俺は貴女に当てる気なんて微塵も無いよ。」

女性 

「花粉? 何それ!? 何もないじゃない!」

男 

「今に分かるさ。」 


女性にしがみ付いた怪物、体を揺らし始める。 

黄色やピンクの粉が舞う。


女性、目を擦る。

徐々に大きくなるくしゃみ。

鼻水が流れる様に出てくる。

擤んでも擤んでも止まらない鼻水。

涙まで出てくる。


女性、話す所じゃなくなる。

駅員、これはチャンスと話を終わらせに掛かる。


駅員

「今後は、ピーク時を避けて行動すると言う事で。」

男 

「仕方がないな。」

女性

「……。」


男、意気揚々と事務所を出る。

女性、暫く異変と格闘していたが、落ち着きを取り戻す。


女性 

「……今まで花粉とは無縁だったんですよ。」

駅員

「……触らぬ神に祟りなし、ですね。」


暫くの沈黙。

震え出す女性。

駅員、温かいお茶を女性に出す。


駅員

「外、出られなかったら休憩していて大丈夫ですよ。」

女性

「……ありがとうございます。」


一口お茶を飲む度に深呼吸する女性。

駅員、女性が落ち着くまで事務作業をする。


女性、事務室からホームの様子を覗く。

人の流れが緩やかになったホーム。

男の姿は無い。


一呼吸置く女性。

駅員に一礼して去っていく。

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