第2話
男
「……さっさと本題入れ。」
髭
「そーだった。」
髭面、メモを取り出す。
それを辿々しく読む。
小難しい説明文が並ぶ。
髭
「……要するに選ばれたってワケだ。」
男
「ん?」
髭
「えっと……。」
男
「お前の言葉で説明してくれ。」
髭
「未来の世界では、花粉が今の比じゃないくらいに飛んでる。」
男
「岸田さん、失敗したのか?」
髭
「結果的にな。」
男
「……。」
髭
「木が花粉を飛ばさないなんて不可能だろ?」
男
「まぁな。」
髭
「木にも生きる権利を!人間の都合で生命をイジるな!ってのが多くなってな。」
男
「もう何でもアリなんだな。」
髭
「花粉飛びにくい木は作れなくなった。」
男
「……。」
髭
「最早、バイオテロ並みでな……。」
男
「舌下療法はガセだったのか……。」
髭
「未来の花粉、舌下療法効かなくなっちゃったんだよ。」
男
「何でまた。」
髭
「生命ってのは逞しいもんで、花粉も進化したんだなぁ。」
男
「……。」
髭
「飛ばせないなら引っ付かせちゃおうって事で、粘度が高くてさ。
一度、体ん中に入ったら一年は出て来ない。種類も豊富と来たもんだ。」
男
「……控えめに言って地獄だな。」
髭
「だろう?」
男
「でも何で俺?」
髭
「お前は花粉に強い。」
男
「そうかもしれん。」
髭
「ただ、嫁さんは激弱だろ?」
男
「……元嫁さんな。」
髭
「弱い者の立場が分かるじゃないか。」
男
「まぁな。」
髭
「おじさんみたいな人間の力が必要なんだ!」
髭面、とても真剣な表情。
髭
「頼まれてくれないか?」
男
「……まぁな。」
髭面、小躍りする。
歌まで歌いそうな勢い。
男、そんな髭面を静止する。
男
「具体的に何やんの?」
髭
「花粉を可視化出来る様にした。」
男
「ほぉ。」
髭
「やっつけて欲しい。」
男
「ほぉ?」
髭
「パンチで!」
男、大笑いする。
髭面、真顔で男を見る。
男
「冗談、じゃないのかよ……。」
髭面、公園の杉の木を指差す。
杉の木、怪物化して揺れている。
男
「……パンチじゃ無理だろ。」
髭
「近付きゃ分かる。」
髭面、男の手を引く。
杉の木の前に来る。
杉の木から、小さい怪物がウヨウヨ出てくる。
人間や草花、建物にピトピトくっ付いていく。
段々と束になり大きくなる怪物達。
髭
「スイミーみたいなもんだ。」
男
「あぁ。」
髭
「これをパンチして欲しい。」
男
「なるほど……?」
髭
「人間に付いてる場合が殆どだから、花粉にだけ当たる様に頼むな。」
男
「……。」
髭
「下がコンクリでも構わないから。」
男
「おぉ……。」
髭
「あんたがパンチしたら、無事ヤツらは地球に還る事が出来る。」
男
「これって意味あんのか?」
髭
「過去の花粉が少しでも減れば未来の木が救えるだろ?」
男
「そんなもんかね。」
髭
「同志は沢山居るのさ。」
男
「おぉ……。」
髭
「じゃあ宜しく頼んだ。」
男、髭面の方を向く。
髭面の姿は無い。
男
「白昼夢、ってやつか。」
男、隣に目をやる。
髭面のメモ帳が置いてある。
眉を顰めてメモを拾う。
男、メモ帳を開いてみる。
そこには、説明されたばかりの小難しい説明が書かれている。
唖然とする男。
元気に遊ぶ子供の声が木霊する。
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