第2話

「……さっさと本題入れ。」

「そーだった。」


髭面、メモを取り出す。

それを辿々しく読む。

小難しい説明文が並ぶ。


「……要するに選ばれたってワケだ。」

「ん?」

「えっと……。」

「お前の言葉で説明してくれ。」

「未来の世界では、花粉が今の比じゃないくらいに飛んでる。」

「岸田さん、失敗したのか?」

「結果的にな。」

「……。」

「木が花粉を飛ばさないなんて不可能だろ?」

「まぁな。」

「木にも生きる権利を!人間の都合で生命をイジるな!ってのが多くなってな。」

「もう何でもアリなんだな。」

「花粉飛びにくい木は作れなくなった。」

「……。」

「最早、バイオテロ並みでな……。」

「舌下療法はガセだったのか……。」

「未来の花粉、舌下療法効かなくなっちゃったんだよ。」

「何でまた。」

「生命ってのは逞しいもんで、花粉も進化したんだなぁ。」

「……。」

「飛ばせないなら引っ付かせちゃおうって事で、粘度が高くてさ。

一度、体ん中に入ったら一年は出て来ない。種類も豊富と来たもんだ。」

「……控えめに言って地獄だな。」

「だろう?」

「でも何で俺?」

「お前は花粉に強い。」

「そうかもしれん。」

「ただ、嫁さんは激弱だろ?」

「……元嫁さんな。」

「弱い者の立場が分かるじゃないか。」

「まぁな。」

「おじさんみたいな人間の力が必要なんだ!」


髭面、とても真剣な表情。


「頼まれてくれないか?」

「……まぁな。」


髭面、小躍りする。

歌まで歌いそうな勢い。

男、そんな髭面を静止する。


「具体的に何やんの?」

「花粉を可視化出来る様にした。」

「ほぉ。」

「やっつけて欲しい。」

「ほぉ?」

「パンチで!」


男、大笑いする。

髭面、真顔で男を見る。


「冗談、じゃないのかよ……。」


髭面、公園の杉の木を指差す。

杉の木、怪物化して揺れている。


「……パンチじゃ無理だろ。」

「近付きゃ分かる。」


髭面、男の手を引く。

杉の木の前に来る。


杉の木から、小さい怪物がウヨウヨ出てくる。

人間や草花、建物にピトピトくっ付いていく。

段々と束になり大きくなる怪物達。


「スイミーみたいなもんだ。」

「あぁ。」

「これをパンチして欲しい。」

「なるほど……?」

「人間に付いてる場合が殆どだから、花粉にだけ当たる様に頼むな。」

「……。」

「下がコンクリでも構わないから。」

「おぉ……。」

「あんたがパンチしたら、無事ヤツらは地球に還る事が出来る。」

「これって意味あんのか?」

「過去の花粉が少しでも減れば未来の木が救えるだろ?」

「そんなもんかね。」

「同志は沢山居るのさ。」

「おぉ……。」

「じゃあ宜しく頼んだ。」


男、髭面の方を向く。

髭面の姿は無い。


「白昼夢、ってやつか。」


男、隣に目をやる。

髭面のメモ帳が置いてある。

眉を顰めてメモを拾う。


男、メモ帳を開いてみる。

そこには、説明されたばかりの小難しい説明が書かれている。

唖然とする男。


元気に遊ぶ子供の声が木霊する。

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