ラスボスの軍勢が自ら向かってくるRPGとかクソゲーすぎん?

 ライガナ森林に着き、ライガウルフの巣へと向かう。


「意外と木が大きいわね」


「森林って言うよりかは普通に森だな」


 キュヨキュヨとなんかの鳥が鳴いていて、どこぞのジャングルの中にいるような気分になる。


「ライガウルフの巣の方向合ってるか?」


「合ってるはずよ、確証はないけれど……」


 どこに行っても同じ光景なので少しだけ怖い。


 同じとこぐるぐるしてるとかありそうだし。


 迷う可能性があるならさっさとテレポートしたいところだが、宿で思った通りここら付近には裏技バグがあまりないのでテレポート出来ないのだ。


 くそぉ……運営さんもっとバグらせといてくれよ……。


「ライガウルフの素材って高く売れるのかしら?」


「八体分ともなればまあまあな値段になるんじゃないか?」


「そうよねぇ……しかもこのクエストのクリア報酬で50万G……」


 ル、ルリカが悪い顔になってる……。


「ほらほら、そろそろ着くぞー」


 計画していた洞窟が見えてくる。


「あともう少しでライガウルフと戦うのね……」


「そうだ、心の準備とかすっぞー」


「イイジマはもう出来てるの?」


「ああ、既に出来てる」


「ほんと何者なのよあんた……」


 まあ、めちゃくちゃクエストやって来たんで。


 洞窟内に座り、水を飲んだりして少し心を落ち着ける。


 今更だけど死んだら生き返らないって怖いな……。


 よく昨日俺ボススライムに突っ込んだよな。


 裏技はもしかしてアブナイ薬だった……?


「あっ、見て!」


 ルリカが指さす方向には二体のライガウルフが、巣である洞窟の前で仁王立ちしていた。


「あいつら……何をしているんだ?」


 ライガウルフには見張り役とかそういうのはいないはずだ。


 つまり彼らは何かを待っている……?


 そう思った時、近くの影から人が現れた。


 マジで影からニュオオっと出て来た。


「な、なんだあいつは……?」


「多分だけど……魔族よ」


 ま、魔族!?


「なんでこんな所に魔族が……」


「魔王の軍勢がもうここら辺まで来てるのよ!」


 ……………………はぁ!?


「ま、魔王の軍勢が攻めて来てる……?」


「当たり前でしょ! 最近北にあるラーヴァ国の防壁が突破されたじゃない!」


 ラ、ラーヴァ国? んな国知らないぞ?


 てか何で攻めて来てるんだ? 俺が行くまでは動かない筈じゃ……


 まさか、ストーリー無視しやがったのかあいつら!?


 ラスボスが自ら攻めてくるRPGとか最悪だぞ!?


「と、取り敢えずこれどうするんだ?」


「ギルドに戻って、この事を報告しないと!」


「分かった、そうしよう」


 姿勢を低くしながら洞窟から出ようとすると、魔族がこちらを見た。


「そこにいるのは分かっているよ」


 ……あ゛ぁー冷や汗がー


 冷や汗が止まんねぇー。


「大人しく出て来たまえ、ちゃんと出て来たら命までは奪わないでやろう」


 いや奪うだろ。


 普通に魔族ども命奪ってくるからな。


 こちとらインワドやってる時に経験済みなんだよ。


「出てこない、か。出てこないなら……」


 そう魔族が言った瞬間、彼は影に消えた。


「!? どこに行った!?」


 急いで背後を見ると……。


「おっと、動かない方が賢明だと思うぞ?」


 ルリカが、捕まっていた。


「全く、命までは奪わないと言ったのに……」


「イ、イイジマ……」


 ナイフを突きつけられているせいでほぼ動けない。


【麻痺付与】とかをすれば良いとか思うかもしれないが、魔族にはスキルと魔法が効かない。


 血液がMPみたいな奴らだからだ。


 そして魔族は捕まっているルリカをこれでもかと見せつけながら少しずつ後ろに下がる。


 ……ん? 何で後ろに下がってるんだ?


「なあ」


「なんだ人間よ」


「お前、俺が怖いのか?」


「ふっ、何を言う。貴様ごときすぐに殺せるわ」


「じゃあ何でジリジリ後ろに下がってるんだよ」


「!!」


 おっとっと、無意識でやっちゃってた感じか?


 てか俺見た目は結構ヒョロヒョロなんだけどな……。


 そんな強そうに見え……あー思い出した!


 魔族って相手の魔力とか見えるんだっけ?


 んで今の俺の魔力ってレベル99のやつだから……。


 こう、MPオーラみたいなのが凄いんだろうな。


「一つ言って良いか?」


「な、なんだ?」


「それ以上後ろに下がらない方が良いぞ」


「何だ? これ以上下がるとお前に不都合でもあるのか?」


「いや、普通に――」


 普通に、死ぬから。


「あぎゃああぁぁぁぁああああ!!」


 一歩下がった魔族の足が消える。


 そしてどんどんと消えていって、上半身だけが残る。


「ガハッ、な、何をした……?」


「裏技を使った」


「ば、ばぐ……? 何だそれは……?」


 てかまずそんな状況で生き残ってるお前が一番バグってるだろ。


「お前をいとも簡単に殺す事ができる魔法みたいなもんだ」


 実際はこの世界の不備なんだが、まあ説明しても理解できなそうだしな。


「……そんなものがあるとはな……フフッ……」


 そう笑って魔族は事切れた。


「し、死んじゃったの……?」


「死んじまったな」


「一体……何をしたの?」


「さっきこの魔族にも言ったが裏技を使った」


「いっ、いつその準備をしたの?」


「俺が水を飲んだ時だ。ここら辺に口に含んだ水を撒くと触れた部分から溶け始めるんだ」


「うわぁ……凄いエグい裏技ねそれ」


「ライガウルフが攻めて来た時用だったんだがな……実際その為にここの洞窟で休憩する事にしたんだし」


「本当に……やっといてくれて助かったわ……ありがとう……」


「どーいたしまして。取り敢えず帰ってこの事を報告するか? それともライガウルフを狩るか?」


「ギルドに戻って報告した方が良いと思うわ。魔族がここまで来てるというのを知らせないと大変な事になるかもしれないし」


「分かった、じゃあ一旦帰ろう」


 そう言って少し魔族の遺体から血を貰う。


「何してるの?」


「血を取ってるんだ」


「え?」


「薬の材料にもなるからな。あのおばさんにでもあげようかと」


「あぁ、そういうことね……」


 水が入っていたボトルに血を入れる。


「それじゃあ今度こそ行こうか」


 そう言いながら始まりの町へと歩きだし――はしないのが俺クオリティ。


「んじゃあ、あのライガウルフを使って吹っ飛ぶぞ」


「……何を言っているの?」


「狼をあそこの壁あたりに立たせて木の枝を持った状態で壁を蹴って乗って、暴れ出した時にもっかい壁を蹴りつつ木の枝をブンッて振ると吹っ飛ぶんだ」


はたから見たら見た目ヤバいわね……」


「ま、結構吹っ飛ぶから楽だぞ」


 そしてライガウルフをなんとか誘導して吹っ飛ぶのだった。


 …………俺だけあらぬ方向に――。


「ミスった」

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