これは……魔法のお豆……!?
「ほら、そろそろ起きなさーい」
「んんぅ?」
誰だ俺の頰をペチペチ叩くのは。
「ほら、さっさと行かないとライガウルフの討伐が出来なくなっちゃうわよ」
「ふわぁ〜、ああ〜」
「あでっ」
「ちょ、大丈夫? そんなので怪我しないで頂戴ね?」
意外とこの高さから落ちるのも痛いもんだな。
「安心しろ、慣れてるから」
「慣れてるって……いつも浮いて寝ているの……?」
「んな事はない、でもまあ……敵に襲われにくくなるし悪くないかもな……」
「やめて! なんか心配になるから!」
空中に浮くの結構安全で良いと思うんだけどな……。
身支度をして、朝食を食べる為部屋を出て食堂へと向かう。
「おや、早起きなんだね」
昨日、宿の受付をしていたおばさんが眼鏡をクイッと上げてそう言う。
「はい、クエストがあって」
「クエストって事はあんたら、冒険者なのかい?」
「そうです」
「冒険者ねぇ……日々命をかけて魔物共と戦うのは怖くないのかい?」
「こ、怖いですけど、誰かがやらなきゃいけない事ですから」
ルリカがそう言うと、おばさんは少し笑顔になった。
「そうかい、ちょっと待ってな、すぐに用意してやるから」
おばさんはそう言って奥へと行ってしまった。
早朝なのもあって食堂には俺ら以外人がいなかった。
いやぁーやっぱ貸し借り状態ってなんかテンション上がるな。
「さっきのお婆さん不思議な雰囲気の人だったわね」
「そうだな……と言っても、気が強いだけにも思うがな」
「あはは、確かにそうかもね」
そんな事を話していると奥からおばさんが出てきた。
「ほら、朝食だよ」
おっ、来たか。
えーっと米にシャケに……こ、これは……!?
「あれ? どうしたのイイジマ?」
「……おばさん」
「なんだい?」
「これ、どこで売ってるのか教えてくれ」
俺が指さしてそう言ったのは、『納豆』だった。
「ん? それかい? それはうちだけで作ってる魔法の豆だからどこにも売ってないよ」
「頼む、作り方を教えてくれ」
俺は普通に納豆が大好物で、よく私生活でも食べていた。
ただ、自由度が高いはずのこの『インフィニア・ワールド』には何故か納豆が無く、少しだけ悲しかったのだが、まさかこんな所にあるとは……。
「いくら冒険者さんのお願いでもダメだ。それを作るのにかなりの時間がかかったからね、そう
「そこを何とか!」
そう言うとおばさんは手を
「……分かった、教えてあげよう」
「! ありがとうございます!」
「ただし……あーちょっと待ちな」
食堂の奥へ行き、すぐに戻って来た。
「ほら」
そう言われて一枚の紙を渡される。
「これは?」
「一応私は薬を作ったりもしていてね、その素材さ。こんなおいぼれが魔物のいる森に行ったら死んじまうからね」
なるほど、つまりこれはクエストだな?
「分かった、引き受ける」
「ちょ、イイジマ! この豆凄い変な臭いなのにそこまで作り方を知りたいの!?」
「そこを目を瞑ればバカ美味い豆だから、試しに食ってみ」
「おや、あんた食った事ないはずなのに何で美味いって分かるんだい?」
……な、なんて言おう?
元いた世界で食った事があるからです……何て言えるわけねぇしな。
「か、勘だ! 絶対美味しいと思ったんだ!」
「…………」
あちゃー、ダメだったか?
「ははははは! そうか、勘か! ははは!」
なんか爆笑してる。良かったっぽいな。
「ほらほらさっさと食っちまいな、冷めちまうよ」
「あっ、いただきまーす」
ルリカが納豆を一口食べる。
「ん? ……んぅ〜、ん?」
分かる、初めて食った時そんな反応になるよな。
「イイジマ、本当にこれが美味しいの?」
「食い方が違う、米にかけて食うんだ」
「あっ、そうなの?」
ルリカがかけ始めたので、俺も米にかけて食う。
「あーやっぱ美味い」
「本当ね、米にかけると凄く美味しくなるわ」
そのままパクパク食べる。
というか納豆があるだけで箸が進む進む。
多分10分程で食べ終わった。
「この豆……凄く美味しかったわ……」
「だろ? やっぱ納豆って偉大なんだよな」
「な、納豆?」
「この豆の名前だ。合ってるか?」
「合ってるよ、全く何で知ってるんだか。最近の冒険者は怖いね〜」
そう言っておばさんは食器を持って奥へと行ってしまった。
「それじゃ、行きましょ」
「ああ」
もう少し納豆食べたかったなと思いながら宿を出て――
「今更だけど、私達木にタックルするって中々ヤバい事してるわよね」
「……そうだな」
今が早朝で本当に良かったとも思える
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