第4話 邪神ちゃんの家
村に住む事が決まれば、当然ながら最初にするのは家の確保である。正直、祠でずっと寝起きしていたフェリスにとって、家がどんなものなのかが分からない。まずはそこからなのである。
「天使様に粗末な家などご用意できませぬ」
村長を含めて、村人の総意がそう言っている。
こうして、フェリスの家は村長のものよりも立派なものが用意される事になった。フェリス自体は寝床さえあればどんな物でも構わないのだが、村人たちが気合いを入れてしまったので止められなくなってしまった。殲滅すれば止められるのだが、今のフェリスにはそれははばかられるものなのだ。
「やれやれ、もう好きにしてちょうだい……」
フェリスは村人に好きにやらせる事にして、朝に会った牛たちを見に行く事にした。
だが、この事をフェリスは後悔した。フェリスが目を離した隙に、村人たちの暴走が始まったのだ。でき上がった家を見た時にフェリスは複雑な表情を浮かべてしまう結果となったのである。
「どうして……」
村にある建材自体では大したものができないだろうと踏んでいたし、何にしても日数が掛かると思っていた。
ところが、結果として夕方には、確かに村長の家より立派な家ができ上っていたのだ。あまりの仕事の速さに、フェリスは地味に恐怖した。
「こ、こ、これは……?」
建てられた家を指差しながら、フェリスはぎぎぎぎ……っと村人たちに振り返る。すると、村人たちは揃って、
「はい、天使様のご邸宅です」
と満面の笑みで返してきた。そのにこにこっぷりたるや、フェリスが顔を歪ませて引きつかせるには十分だった。
「ささっ、どうぞ中もお確かめ下さい」
村人たちが急かしてくるので、フェリスは仕方なく家の中へと入っていった。
家の中は部屋が複数あるほか、湯浴み場はあるし、台所もあるし、寝床専用の部屋まであった。なんというか一人で使うにはもったいない広さのある平屋家屋である。
「この大きさを半日で建ててしまうとは、驚いたわね。でも、そうなると強度が心配になるわ」
フェリスは壁をコンコンと叩きながら強度を確かめている。
しかし、この家、よく見ると他の家とは違った特徴があった。
「ん? 柱の間隔が狭いし、壁板が横向きに通してある?」
「はい、やはり天使様の家ですから、丈夫な方がよいかと思いまして。あと天井もかなり頑丈に作らさせて頂いております」
そう説明する村人。
天井をよく見れば、大きな梁があるかと思えば、その上の板は隙間なく置かれている。聞けばさらにその上には下とは違う方向に板が渡してあるとの事。つまりは垂直交差の状態で板が置かれているらしい。しかも屋根に水が溜まらないように傾斜もついている。半日施工の突貫工事の割にはやけに細かい仕事をしている。村人総出というのはだてではなかった。
「うーん、実に立派な仕事だけど、雨漏りだけは気になるからそこだけ魔法で強化しておくわ」
フェリスの手が光る。そして、壁に手を付けると家全体が薄く光り輝いた。これで強化完了である。
「よし、こんなものだな」
こう言って、フェリスは村人たちの方を見る。
「立派な家を建ててくれて感謝するよ。あたしの気が変わらないうちはここにずっと居てあげるから、まあよろしく頼むわね」
にっこりと微笑めば、村人たちからは歓喜この声が上がる。よく見れば大泣きしている者まで居る。そこまで感動するものかねと、フェリスはびびりながらも村人たちの様子を見ている。
長らく引きこもっていたがゆえに、久々に見る人間たちの様子というものは新鮮だった。しかしながら、また宴会を開こうとする村人たちをフェリスは制止する。さすがに二日連続は勘弁してほしい。崇められるのは悪くはないが、さすがに酒盛りの醜態を見る気はないのだ。フェリスが一生懸命説得すると、村人たちは残念そうにしながらもおとなしく家へと帰っていった。
(ふぅ、数100年引きこもっている間に、ずいぶんと世の中変わったわねえ……)
フェリスは村人たちが帰ったのを確認すると、新築の家の中に入って扉を閉めた。
建てられたばかりの家だが、テーブルと椅子、それとベッドだけはちゃんと備え付けられていた。ここまでしてもらえれば、結構至れり尽くせりである。
家を確認し終わったところで、不意に玄関が叩かれる。
「どちら様かな?」
フェリスが玄関に向かって応対する。念のために扉の向こうを透視している。見えているのは家を建てた村人の中に居た夫婦のようだ。
「天使様、お食事をお持ちしました」
どうやらご飯を持ってきたようである。これを聞いてフェリスは家の中を振り返る。確かに台所はあるが食料が無かった。こいつはうっかりである。
「そうか。すまないわね」
フェリスは玄関を開ける。その時、フェリスは驚いた。夫婦以外にも後ろにはたくさんの村人がこぞっていたのだから。
「いやいやいや。そんなに要らんぞ。あたしは邪神だから、基本的には信仰さえ集められれば食事など要らない」
すると村人たちが残念そうな顔をする。その顔を見たフェリスは何とも言えない罪悪感に見舞われる。
「……はぁ。一応、あたしは保存の魔法も使えるから、受け取ってはおくわ。これだけあれば数日は大丈夫だから、しばらくは貢がなくてもいいわよ」
そう言って、フェリスは食事を受け取っていく。そしたらなんと、台所が完全に埋まってしまった。どれだけ持ってきたのだろうか、村人たちは……。
再び村人たちを見送ったフェリスは、椅子に座って食事を取る。味付けなど大したものではないものの、フェリスはどういうわけか感動してしまっていた。
(はあ、これだけ平和だと、こういうのも悪くはないかな)
フェリスは改めて、今の世界のほのぼのさというものを噛みしめていたのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます