第6話 魔石(汚い)

「お前、すごいな」

「シャウ」


クレンシーは機嫌よく鳴いて俺の足元まで戻ってきた。しかし、鳴き声の元気さとは裏腹に結構疲れたようで、ぐったりしているように見える。

ゆっくりと足を伝って腕まで登り、我が物顔で指を食べだした。


「おい、勝手に……まあいいか」


今回は頑張ってくれたので放置しておく。どうせ異能の力で勝手に生えてくるんだ、何となく抵抗感がある以外俺に損はないからな。クレンシーも食いながら元気を取り戻したのか、追加でさらに食べだした。


「お前、トカゲじゃなかったのか?」


クレンシーは俺を見て首を傾げている。意思疎通は出来ているはずだから、この仕草は本当に分からないんだろう。今までの質問は全部首を縦や横に振ってくれてたからな。自分が何なのかなんて知る機会は少ないだろうから仕方ないか。これだけ頭がいいなら、この種族だけで文明を作れていそうなものだけど……。


「親はいないのか?」


また首を傾げた。分からないか。

こいつを魔獣登録するついでに聞いてみようかな。


クレンシーの事は一旦置いておくとして、目の前で倒れているクマに目を向けた。死んだ今でさえ小さい山のようだ。


「このクマ、ギルドの指定討伐対象に入ってたっけ?」


自分には縁がなかったから覚えてないな。こういう大きさの生物がいるってことは噂には聞いていたが、俺の仕事は専ら町の中でだったからな。


いや、対象だったかどうかはこの際どうでもいいか。まともなギルドなら危険生物に対する討伐報酬はきっと払われる。問題は、こいつを討伐した証明をどう持ち帰るかだ。この巨体を丸ごと持ち帰るなんてできない。ギルド側もそれは分かっているので、魔物ごとに討伐した証明として一部位を持ち帰ることでそれに見合った報酬を受け取れるが……こいつはどこを持って帰ればいいんだ?


「魔石でいいか」


魔物ならこいつの体内にも魔石があるはずだ。これだけの巨体ならその大きさにも期待できる。こいつを倒した証明にはならないかもしれないが、この巨体ならクレンシーを魔獣登録できるぐらいの金額で売れる。

心臓のあたりをさばいて魔石を……ナイフ持ってきてないな。そりゃそうだ、ギルドから人目を避けてきて準備もせずにここに来たからな。


「クレンシー、そいつの体内から魔石を取り出せるか?」


クレンシーは軽くひと鳴きすると、口から紫色のガスを吐いてクマの体を溶かして穴を開けていく。そんな事も出来るんだ……。

しばらく待つとクレンシーがのそのそと出てきた。顔だけ出した時は分からなかったが、全身が見えてきたらその腹が大きく膨らんでいるのがわかった。こう、球体が入ってそうな形にボコッとだ。

えぇ……。どう見ても魔石が入ってない?トカゲってそんなんだっけ?よく見たらクレンシー自体も大きくなっている気がする。


「おいおい大丈夫?腹が凄いことになってるぞ」

「……」


クレンシーは地面に前足をついて軽く身をよじる。同時に体のふくらみが上に移動していき、コプッ、という音とともにクレンシーが魔石を吐き出した。出てきたのは、人の頭ほどもある大きさの魔石だ。

手に取ろうとすると、その表面がぬめっていることに気付いた。うん、そうだよね。体内に入れて運んだんだもんね。

クレンシーは『早く拾え』と訴えかけるようにこちらを見てくる。同時に、大きくなっていた体が縮んでいった。何だこの生物。


これが入る程度の袋は持ち歩いているが、流石にちょっと入れたくないな。拭えるものも無いんだけど……着ている服でいいか。どうせすぐ洗えるし。……いや、嫌だけどね。


魔石を拭きながら考えるのは、胸に穴の開いた死体の処理だ。放置すると虫が湧くから出来るだけやるな、ってギルトには言われてるけど持ち帰るのも無理だしなぁ。


「この死体、どうしような。クレンシー、食べるか?」

「シャァ……」


クレンシーは不満を表すように尻尾を叩きつけながら鳴いて、ジャンプして耳を食べていった。こいつめ。いや、人間しか食べれないんだっけ。じゃあ仕方ないな。

放置するしかないか……と思っていたら、クレンシーが動き出した。俺の耳を飲み込んだ後死体に近づき、赤く燃え盛る炎を吐いて死体を焼き尽くしていった。電気が出たり炎が出たり、器用な生物だ。


しばらく魔石を服で拭いたり持ち上げて眺めたりしているうちに、クレンシーの死体処理が終わったようだ。死体は全て灰になって風に吹かれていった。ああ、ギルドに売ればそこそこの金になっただろうな……。でも持ち帰れないから仕方ない。切り替えよう。クレンシーが協力してくれるなら、またいつか金を稼げる機会もきっとある。


ここでの用は終わった。そろそろ日も傾いてきたから急がねば。今は問題ないが、ここまで来た時間を考えると帰るころには日が沈みかねない。日が沈んでからだと魔物も凶暴化するし道も分からなくなる。


「……さ、帰るか」


小さくなったクレンシーを肩に乗せ、俺たちは街へ帰った。

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ゾンビ男と人食いの魔物 焼き鍵 @cook_key

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