絵の中で佇む君へ。
華野マルメ
絵の中で佇む君へ。
小さい頃から絵が好きだった。
特に理由はないがなんとなく絵の中には画家の願いや思いが込められているような気がしたから。小さい頃の私にはそれがとても輝いて見えていた、そしていつしか憧れるようになったのだ。
私もいつか絵を描いて見てくれた誰かに自分の思いを伝えたいと。
しかし、それはもう叶わない。
私は夢を叶える為ただひたすら毎日絵を描き続ていた。
そんな日々を過ごしていたある時、いつものように筆を手に取ったはずが手をすり抜けそのまま床にカランと音を立てて落ちた。あれ?と思いつつ筆を拾うため床にしゃがみ込む、すると全身に電流のような小さな痛みが走ったあと力が入らなくなり前のめりに倒れた。何が起きたか自分でも理解できなかったが倒れた時に頭をぶつけた影響か、ぐわんと目の前が揺れ私の意識は落ちていった。
次に目を覚ますと白い天井に少し古臭い色をしたカーテンが見える。
その光景を見て瞬時に状況を理解した、あぁ自分が倒れたあと救急車にでも運ばれたんだなと。取り合えず周りを見て回ろうと身体を起こした、だが何故か全身に力が入らない。
怖い、なんで起き上がれないの?
冷静だったさっきまでの自分とは違い今は焦っていた。只々怖かった。
しかしそんな不安は無用だとでも言うように案外すぐに起き上がれるようになった。
益々自分の状況が分からなくなり混乱していると扉をガラガラと音を立てながら看護師さんが入ってきた。看護師さんは私の様子を見て混乱しているのがわかったのか軽く運ばれた時の経緯を話してくれた。
どうやら私が倒れた時お母さんが物音に気付き様子を見に来ると私が真っ青な顔をして倒れていたようだった。お母さんに心配をかけたなと申し訳なく思っていると先生に呼ばれ診察室まで歩いて行く。
そのあと診察室で先生の話を聞いたのだが正直思い出したくない。
なぜなら余命申告をされたからだ。
余命を言われた後何を話していたのか覚えていない
覚えているのは泣き崩れる母の姿だけだった。
それからというもの私は何をするにもやる気が出なくなり
食べる行為さえ嫌になっていた。
けれど唯一絵を描くことだけはやめなかった。
理由は至って単純、私という存在を残したかったから。
そして絵に願いや思いを込められるなら私のすべてを絵に託したかったから。
しかしそれでも余命は待ってはくれない。
日々病気は身体を蝕んでゆき段々と思うように体が動かせなくなっていくのだ。
最近では一日の半分以上を寝たきりで過ごすようになっている。
それでもなお時間が許す限り必死に絵を描き続けた。
自分のすべてを絵に込めながら。
「やっと描き終わった...」
完成したのは深夜、ほとんどの人が眠りにつき見回りの看護師さんの気配もしなかった。私が描いたのはもう一人の私。想像で描いた存在しない未来の私だ。
そんな存在しないはずの私に話しかける。
「誰だっていつかは死んでしまうし忘れ去られることはわかってる、でも...それでも私の存在が周りの人たちの記憶から消えると思うと少し寂しいんだ」
初めて自分の弱い部分を口にする。
「周りの人達に覚えていてほしいなんて贅沢なことは言わない。だからせめて"あなた"だけは私のことを覚えていてくれないかな?」
これが私の願いと思いだから。
自分の願いを彼女に話して少し心が軽くなる。
それと同時に緊張がほどけたのか段々と睡魔が襲ってくる、
身体を動かすことすら今は億劫に感じそのまま瞼をゆっくりと閉じる。
私の意識が落ちる直前何処かで聞いたことのあるような声がした。
「おやすみなさい」
誰かがそう言い微笑んだような気がした。
絵の中で佇む君へ。 華野マルメ @Hanamaru_4771
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ネクスト掲載小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます