旅の途中

@ef_utakata

旅の途中

今朝受けた余命宣告だけずっと頭の隅でリフレインする


いつかくるものがいまさら目に見えて時計はいつも同じ速度で


瀬戸際にあると思えぬほどに朝、するどい影を日時計は指す


毎日に残り時間が刻まれてすこし狂ってくれよと願う


毎朝に自分のことを抱き締めてここにいるぞとしずかにさけぶ


受容など来るはずもないテレビにはしずかな訃報ばかりがならぶ


だれにでもあるでもわたしだけの死があの曲がり角を歩いている


殊更にうるさい僕の葬礼を僕が見れないのは口惜しい

 

イヤホンの音量を下げ新参に耳をすませる隣のベッド


お向かいは年越し前にいなくなり晦日の夜の天井しずか

 

全身が不平をあげて床に伏す吾の気持ちなど分からぬままに


ひとつひとつ行けない場所が増えてゆく身体を措いてこころは飛べぬ


飛ぶ鳥の明日かも明後日かも知れぬあの一羽よりながく翔びたい


アルバムは生まれてからの飛行距離これより厚くならないのかな


あまりにも距離を取れないままに床、ユーモアなんてすべては余裕


いまはただ三十一文字だけを読んで、書く余裕さえあればもういい


まだ生きて、まだ生きている外界のことばは僕の手のひらにある


ほんとうに久々に家、老猫はぶっきらぼうに手のひらを嗅ぐ


老いて去る、若くして去るみんなまだ旅の途中にいるのだろうか


善いひとでいたいと思うことはなく旅することのありがたさのみ

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