5話 台風といかずちと

「早く出てくれ」


 いらいらしながら、携帯からの呼び出し音を数える。七、八。そして九回目でやっと繋がった。


「姉さん」


「優斗? 今買い物中」


 雑多な音と共に紗羅の声が少し遠のく。


「雷が由奈を狙ってる。台風がくる」


 スーパーが混雑しているのか、雨の打つ音と共にざわつく店内の音が響いていた。


「近くにラジオかテレビはないか」


 店内に向こうでも台風の情報が流れていた。


「これは、由奈ちゃんがらみ?」


「たぶん」


 考え込んでいるのか、紗羅の声は聞こえてこない。


「こちらへ向かっているわね。台風の目に入ったら西に移動した方がいいかも」


 山梨を超えた後、東に向かうのは優斗も想像できた。早く台風から抜ける。確かにそれしかない。道のりを考える。


「台風をやり過ごせれば何とかなるのかな?」


「なぜそう思う?」


「時空の復元力だったよね、優斗。歪みから発生するエネルギーによって起こるって。つまり一度放出されたら次の歪みが生じるまで大丈夫かなって思っただけ」


 そうかもしれない。そう思うと、少しだけ安堵して気を引き締めた。


「すぐに帰るよ、姉さんも急いでくれ」


「了解」


 ふと考える。彼女はどこから来たのだろう? と。




                4




 家の前まで戻ってまずその外観に驚いた。紗羅の部屋の外枠だけ塗装が剥げている。何度雷に襲われればこうなるか見当もつかない。


 車を降りてドアに近づく。そして、呼び鈴を押した。


「遅い」


 ドアが開くと紗羅が頭を小突いてきた。由奈もその後ろから袖を引っ張った。その体が微かに震えている。やはり女の子だ。男の優斗ですら雷は恐ろしい。彼女達なら猶更だろう。二人の無事な様子に少しだけ安堵する。


「これ見て」


 パソコンに繋がっていたらしい焼け焦げた電源ケーブルを差し出してくる。


「行こう」


 優斗が急かす。台風の目までは居たかったが、火災にでもなったら目も当てられない。近隣の住人の動向も気にかかる。なによりこの電源ケーブル見せられた後だ。火と雷から逃げられるとは思えない。そう考えたら焦る気持ちが先に立った。



 

 車を入口に近づけるも十m弱は距離が離れる。両脇に花壇があり、これ以上は近づけない。


 紗羅が後部座席のドアを開けた。そして由奈が一歩踏み出そうとしたその時、目の前に電気が迸った。


「ひっ」


 ひゃっくりの様な声が漏れる。

 

 轟音がする。雷が落ちたと認識できたのは少し後だった。由奈が立ちすくむ。紗羅も由奈に向かって一歩が踏み出せない。続けざまに建物に沿って目の前に雷が落ちる。二人に当たらなかったのは車と由奈両方に電気が引かれたからからかもしれない。


 優斗が降車し回り込み、由奈の腕を引いた。そして、左の空へ付属品の車両工具を投げつけた。雷が落ちる。工具へ。雷が落ちている隙に由奈を後部座席へと押し込んだ。次いで紗羅が乗車する。再び落雷がおこる。車に乗ったお陰で二人は無事だった。少しだけ由奈の目から涙が出ている。泣き叫んでも可笑しくない状況でこの反応に正直ほっとしていた。


 前を回って運転席に搭乗する。口の中に鉄の味が広がっていた。



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