2話 携帯とポッキーと
「とりあえずこれでも食え」
中から取り出した冷えたポッキーの箱を差し出す。
「ありがとうなのじゃ」
箱の中の袋を破いて一本咥え。一口ぽきんと音を立てる。その顔に笑みが戻った。冷たく甘い触感に癒されたのだろう。
少しだけ優斗の顔にも微笑みが浮かんでいた。出会ったばかりだと言うのに、なんとなく彼女がそこに居るのが当たり前の様な錯覚に陥っていた。
ベッドに戻り腰をおろし、どうしようか? と考える。
「そうだな」
そんな時、独り言に被る様にドアが激しくノックされた。
「こっちへ」
どきっとしながらも腕を引いて押入れを開け中に入っていてもらう。反動でお菓子の箱が幼女の手から落ちていた。
「あっ」
と言う、小さい呟きを聞きながらも襖を閉める。
「今行くー」
応え、大股で玄関まで。そしてドアノブを捻ろうとした矢先に、向こうから開け放たれた。
「無事?」
急いで駆け付けて来てくれた様子で紗羅が額の汗を拭う。ショートの髪がボーイッシュな姉らしい。その顔が固まった。応える間もなく、
「ついに幼女にまで手を出したのか? 優斗」
優斗の後ろへ視線を投げかけていた。首を巡らすと押入れから幼女が部屋に戻って来ている。ポッキーの箱を拾い上げ、もう一本口に咥えていた。
「こ、これには訳が」
美しい見た目に紗羅でさえ一瞬気圧される。玄関で靴を脱ぎ捨て、きょとんとした幼女に歩み寄り抱き締めた。こちらにきつい目指しを投げかけてきた。
「なんてね。聞いてた」
舌を出し、携帯を持ち上げて振って見せてくる。
「あっ」
電話が繋がったままになっているのを今思い出した。
「苦しい。離すのじゃ」
「あ、ごめん」
紗羅が腕から力を抜く。そしてふと考え込んだ。優斗に向けていた視線を幼女へと戻す。
「どこの子? 家分かる?」
幼女が首を振る。ここが何処かさえ分かっていないらしい。じっと柱を見つめて何かを否定する様に再び首を振った。
姉の目に穏やかな光が戻っていた。
ようやく安堵した。自分に変な趣味があると思われる処だった。
唐突に現れた幼女、名前は、
「由奈じゃ。よしに奈何のいじゃ」
と、はっきりと言い切った。字は親から教えられたのだろう。
「調べるしかないか」
二人で手分けして探す。これしか方法はなかった。夏休み中と言うのも幸いしている。警察には何て言ったらいいか分からない。
「警察は?」
「どう説明する? この状況。いきなり出て来ましたで済むと思えないんだが」
顎に手を当てて紗羅が考える。
誘拐犯にされる事はないだろう。だが、変な噂がたつ恐れがある。大学生である手前、こうした事件には関わりたくないのが優斗の本音だ。
「今日はもう寝よう、全ては明日からだ」
紗羅がじとーっと見つめてきた。「あーい」と由奈が返事をする。ベッドは一つ。押入れに来客用の布団が一式だけある。
「まさか、ここで?」
何を言わんとしたかが分かる。どうしたらいいか混乱していて気づかなかった。由奈は女の子だ。それもとびきりの美幼女。なにも無いと言う楽観視は姉からしたら出来ないのだろう。
「じゃあこの子連れてくから。由奈ちゃんこっち」
「お兄ちゃん。またなのじゃ」
「ああ」
ひらひらと手を振って苦笑いする。
なんとなく寂しそうに由奈が紗羅に続く。
少しだけ優斗も寂しくなった。初めてあったばかりなのに。
近いのだから何時でも会える。そう思って納得した。何か得体の知れないものではなかったと言うのが大きい。
二人が居なくなった後、パソコンを起動する。情報はないかなと思いながらも何を入力すればいいか分からない。由奈と検索するだけでは該当する情報がない。色々と思いつく事を試すが検索結果は芳しくなかった。電気を消しベッドに潜り込む。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます