第4話 初恋の女の子と一緒に登校

 扇茅高校には一つのジンクスがある。


 それは「朝、校門で如月楓を見かけると、その日は幸せになる」だ。


 朝から超と絶がつくような美少女を一目見れただけで幸せになれるから、あながちジンクスは間違っていない


「あの如月さんが男子と一緒に登校してる、だと……?」


「嘘だろ!? まさか彼氏か?」


「いや、冴えない陰キャだし彼氏はないだろ。だけどムカつくな。あの如月さんの隣を歩くなんて」


 正門をくぐるだけで如月さんの周りには目の保養にと男子が殺到する。


 如月さんの登校時間はだいたい把握されていて、その時間帯になると如月さんを一目見ようとする男子が爆増するのだ。


 いつもなら如月さんを遠目で見て満足する男子たち。


 しかし、今日の如月さんは男を隣に侍らせていた。あるいは男の隣に侍っていた。男子たちの悲鳴が轟く。


 当の本人はそんなことつゆも知らずに……


「小宮君ってスマトモだとなんのキャラ使ってるの?」


「ル・イージーかな。即死コンボが楽しくて」


「あ、わかる! 決まった時めっちゃ爽快だもんね!」


 如月さんと俺は楽しくゲーム談義をしていた。話題は大人気乱闘ゲームの「スマトモ」だ。


「如月さんは?」


「私も一番はル・イージーだよ! 二番目に好きなのがスチーブで、三番目がメンメン!」


 え、俺とまんま一緒だ。


「最初に話した時から思ってだけど、俺と如月さんって結構ゲームの趣味合うね」


「うん! だって……」


「だって?」


「初対面であんなに楽しく話せたんだもん! きっと相性が良いんだよ!」


 たしかに波長が合うとかよく言うしな。


 おそれ多くも、もしかしたら俺は如月さんと波長が合っているのかもしれない。


「でも意外だな。ゲアルでフルバレットが好きって聞いた時にも思ったけど、如月さんは癖のあるキャラが好きなんだね」


 悪く言えば、害悪キャラ。


 そういったキャラを好んで扱う俺のような人間は害悪プレイヤーという罵声を褒め言葉に感じるような総じて性格の悪い畜生共(※個人差があります)なのだが、あの如月さんも同士だったとは信じられない。


「うん! 私の憧れの人が使ってるから!」

「……む」


 如月さんに憧れと言わしめるプレイヤーがいるだなんて。


 しかも俺と同じくフルバレットの使い手だと? 


「如月さんが憧れてるのってプロの人?」


「あ、違うよ」


 対抗意識が芽生えた俺は如月さんにプロかどうかを訊ねたが、違うらしい。


 プロであれば「倒した経験あるぜ! ヒャッハー!」と心の中でマウントをとって溜飲を下げるができるのだが、残念なことに相手はプロじゃないらしい。


「プロじゃないってことは身近な人? あのフルバレットを使いこなせるなんて、ほんとに強いんだな」


 俗に言う「フルバレットメタル」愛好家は初心者帯に多かった。


 しかし彼らの多くは「地雷プレイヤー」と呼ばれ、上位ランクになるにつれて減っていった。最上位ランクで使ってた人はほとんどいなかったと思う。


 かく言う俺も1on1モードしかやってなかったしな。

 

「うん! めちゃくちゃ身近な人!」


「そうなんだ……うわ、戦ってみてぇ……」


 ヤバい。ゲーマーの血が騒ぐ。


 ゲームを引退すると宣言をしてからまだ一晩明けただけだと言うのに、その人と戦いたいなと思ってしまった。


「……私、大好きなんです。……様」


 下駄箱で別れる際に如月さんがボソっとなにかを呟いたが、聞こえなかった。




 如月さんと一緒に教室に入ると、当然のごとくクラスがざわついた。


「おっはよー! いっちー!」


 教室に入った如月さんは、真っ先に友達の元へ向かった。

 

 水無月みなづき一華いちか


 セミロングのボブカット。薄く化粧を施しているからか同学年の女子生徒より大人びているように感じる。胸は存在を主張するように上を向き、スカートは足の付け根が見えるくらい短い。


「おはよ。楓、今日は誰かと一緒?」


「うん! 小宮君と!」


 如月さんが俺の肩を引っ張ると、俺を紹介する。


 俺を一瞥した水無月さんは「はあ、」とため息をついた。


「あんがとね、小宮。こいつの暴走に付き合ってくれて。大変だったっしょ?」


「……あ、いや、大丈夫」


 慣れない相手にはとことん内弁慶を発揮する俺。


 特に話の合わなさそうな陽キャ女子に対しては、自分から話しかけられないのは勿論のこと喋っても聞き取れないくらい舌が回らなくなる。


「あっはは、声小さっ。なに喋ってんのかわかんねー」


 水無月さんは気分を害するわけでもなく、笑って面白がってくれた。


 こういう弄られ方は癪だけど、水無月さんは間というか言葉に込める感情の乗せ方が上手いのか、まったく不快に感じなかった。


「もぅ、いっちー、小宮君いじめちゃメっだよ!」


「おー怖っ。前に楓ん家のプリンを盗んだ時くらいキレてんじゃん」


「あれは一箱丸々盗んだからじゃん! しかもお姉ちゃんのだったし! 私がお小遣い叩いて買い直すことになったんだからね!」


 むうともちもち柔らかそうな頬っぺたを膨らませる如月さん。


 朝から仲睦まじい和やかな雰囲気のやりとりが繰り広げられていたが、それは如月さんサイドだけで、

 

「なあ、如月さんの隣にいるアイツ誰だ?」


「小宮…だっけ? ほら、いつもゲームばっかやってる」


「なんでゲームオタクの小宮があの如月さんといるんだよ」


「しかも、なんかいい雰囲気だし」


「隣の席だからって調子乗んなよな」


 男子からは殺意を込めた視線を向けられていた。


 気づいているのは殺意を向けられた当人である俺一人だけで、二人は教室が修羅場になりかけていることに全く気づいてなかった。

 

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