㊼ お祭り騒ぎのあと。




 ゲームセンターの喧騒から少し離れ、壁側のソファに座る。

 みんなと一緒にいても、こうして独りになってみても、少しも落ち着かなかった。頭の中で吹き荒れる砂嵐が止まらない。

 

 今夜、必ず起きる悲劇。避けられない末路。

 場所を変えようが人を減らそうがダメだった。知ってる。るから分かってるんだよ。例えばケンタの家で勢揃いして夜を過ごしても、意図的に体調不良を引き起こさせてみんな外に出れなくても。確実に不幸は訪れる。

 

 そういう死の運命が固まっていて変えられない。だからといって、ただ待つつもりはない。考えなければ……何か、何かないか。


「あれ、一人で遊んでるの?」


 思考の沼に沈んでいると、数人の男子に声を掛けられる。

 よくみれば同じ高校。他クラスの同級生だった。


「いえ。今は休んでるだけ……」

「ウチの制服ってことは、1年生? センパイと楽しもうぜ」

「ほらほらオレたちと行こっ」

「クレーンゲーム取りたいヤツない? 取ってあげるよ」

「ええと、その」


 なんかぜんぜん話を聞いてくれない。

 それに勘違いをしてるみたいだ。たしかに制服のままだけど……まあ顔を覚えてもらうにはオーラが薄いよなあ私。【奇跡の七人】みたいに学校で活躍してれば別かもだけど。

 こんな時くらい放っておいて欲しい。学校にいる時と同じようにさ。真剣に考えを巡らせていたので、少し苛立ってしまった。事故や事件関係なく、最低一人は犠牲になってしまう……その運命をどうするって瀬戸際に!

 別にまったくの他人、無関係の人を巻き込んだって本当はいいんだ。条件はクリアできる。例えば隣のクラスの男子数名を、あの場で身代わりにしても。しかしそんな……身代わりみたいなこと……身代わり?


「友だちと来ていますので、すみません」

「女子だよね。大丈夫だよ(?)」

「なんなら一緒でもいいからさ」

「ぜったい楽しいって!」

「はぁ、ですが」

「耳付いてんの? 嫌がってるじゃん……分かんない?」


 その時、サラが男子たちの後ろから来てくれた。

 間に割って入り、手を繋いでくれたところで再び取り囲まれる。


「なんだよテメ……お、沖島サン?」

「何? あんたらに関係ないでしょ」

「友だちって、沖島沙羅……」

「マジ? 沖島の妹とか?」

「まだ向こうで遊ぶから、邪魔しないでよね……返事は?」

「あ、ああ」

「うっし。ほら行くよっ」


 サラに引っ張られるまま、ソファから離れる。

  

「大丈夫?」

「はい。話しても聞いてくれないし……助かりました」

「あんな奴らのことじゃなくてさ、なんか元気なくない? ケガ痛む? それともメイク落としたいとか」

「そんなことないですよ」

「でも楽しんでないじゃん。なんかボーっとしてる」

「たしかに考え事してて……よくわかるねサラ」

「いやケンタだって気付いてたけど。ホントに悩み事だったら言って。何か出来たはずなのに、って後からわかるの嫌だから」


 サラの顔は真剣だ。私のことを思って声をかけている。

 こんなに心配してくれている友だちが、残酷な未来へと辿り着く。そういうワケにはいきませんよね。必ずみんなを助けるためには。私が……。


 つい繋いだ手に力が入ってしまう。 

 サラの足が止まりかけたが、そのまま歩きながら何か考えいる様子だった。


「あのさ。今日の夜、あたしは……」

「おい! 遅ぇぞサラ! いまラスボス倒して全クリしたところだ」


 ケンタがゲームセンターの電子音を物ともせず声をかけてくる。

 遠くのガンシューティング・ゲームでは字幕でエンディングが流れており、近くにみんなが待っていた。つまり協力プレイでサラが途中で抜けて……ミズキが代わりに入ったんだな。ドヤ顔で拳銃型のコントローラーを持っている。


 さっきやったモグラたたきとかホッケーゲームも楽しかった。純粋に遊びに来たならどんなに良かっただろう。


「なんかあったのか?」

「別に。ユッコ呼びに行ったら、ちょっと話しかけられてウザかっただけ」

「ああーあいつらだな。さっき迷惑かけましたって挨拶してきたよ。後輩の女の子がどうのこうの……あとお前、妹なんていた?」

「は? 兄妹も親戚もいないし」

「そりゃそうだよな。画面に集中してたから聞き間違えたらしい。じゃあ次は何で遊ぶ? みんなでメダルゲームやるか?」


 ケンタの思い付きに反対意見は出ない。二人組でどのコンビが一番メダルを稼げるか、なんてハルやコウちゃんから提案される。運が強い組か知略に長けた組、わくわくして胸が躍るようだ。


 でも、時間的にこの後は夜ご飯に行く流れ……メダルゲームよりも優先したいことがある。【奇跡の七人】みんなが力を合わせれば、あるいは可能かもしれない。


「すみません。ちょっといいですか」

「お、どうしたユッコ」

「あちらにクレーンゲームがありますよね」

「たしか期間限定のキャラクターのやつだったな」

「そうです。たれ耳犬の」


 みんなの視線がクレーンゲームに向かった。

 たれ耳犬のキャラクターフェアで、横並びの何台かは専用筐体になっているらしい。絆創膏の箱、キーホルダー、水筒、スマホケース、たれ耳つきパーカー、ペンケース、タオル、そして超巨大サイズのぬいぐるみ。

 

 私はこれが、変えられない運命の一つだと思っている。

 ループの始まりは知らない。だけど、悲惨な目にあった人は、例外なくたれ耳犬のグッズをもっていた。私は絆創膏を、タカヤとサラはスマホケース、みたいに。いつのまにか紐づいて絡むたれ耳犬のグッズと私たちの運命。なら……どうするか。私はさっき思いついたこと、身代わりというフレーズが頭にぐるぐると巡って離れなかった。


「私はどうしてもあのグッズが欲しくて、よろしければ今から協力してくれませんか? 当然、お金は私が出します」

「なら欲しい景品を取った奴が勝ちにするか。あの中でどれを狙ってるんだ?」

「全部です」

「ん?」

「一つや二つではありません……全種類コンプリートします」




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