㊶ 告白にネタバレあり! 前編
階段の途中でミズキ様とハル様は足を止めた。
その先には屋上へと続いているが、安全のためという理由で閉鎖されている。噂では昨年タバコを吸っていた人がいたとかでしたっけ。
【七つ星】たる御二人は上。私は下。しかしいつになく落ち着かない。
何かが起きている。それも私に関わることで、良くない何か。
まず変化があったのはミズキ様でした。
表情の出ない彼女にしては珍しく申し訳なさそうな顔をしています。
「ごめん」
「な、なにを謝るんですか?」
「朝、ユッコに起きた事を……私は偶然知ってしまった。謝るのはまずその一点。そして、これから話すことも……ユッコを傷つけてしまうから」
「補足すると、とうぜんミズキは言えばどうなるか分かってて、それでも伝える必要があるからユッコを呼んだんだよ。菊池ナオトのことでね」
やっぱり菊池くんに関連する話……。
ミズキ様は私たちが並んで歩いているのを見た、あるいは通路側での会話を耳にしたって感じか。でも、どんな問題がある? 誰が誰を好きになってもいい。恋愛にふさわしい資格なんてモノはないはず。
ハル様が唸るような咳払いをする。珍しく不機嫌?
彼もなんだか、いつもと違って知らない顔を見せてくる。
「そりゃねぇ、ホントなら口を挟むのは野暮な話だよ。人の恋愛にアレコレ注文つけるなんてことは。俺もミズキに話を聞いた時そう思った」
「だったら……」
「ミズキには菊池の友人関係で不安なことがあるって、聞き込みを頼まれたんだ。俺は他クラスに顔が広いしさ、情報を集めるのは難しくなかったけど……ううん、何て伝えりゃいいかな」
「結論から言えば……ユッコは菊池ナオトに利用されている」
は?
かなり説明手順をすっ飛ばしたミズキ様の御言葉に、つい出かかった声をのみ込む。私が、菊池くんに? 利用されているですって!?
例え【七つ星】といえども、これは聞き捨てならない。はい、そうですかと引き下がれない問題だ。そんな私の驚きと納得できかねる思いが表情に出ていたのか、ハル様が慌てて首を振った。
「誤解のないように順序立てて言うよ? 菊池は一見親しみやすそうだけど、その反面……上手く立ち回るというか、自分のために友だちを切り捨てる傾向があるんだ。特にひどいのは彼女との付き合い方でさ、とっかえひっかえ……飽きれば次だ。女性の敵ってやつだよマジで。目をつけた女子をモノにするためなら手段は問わない。自然を装って相手に好意を向けさせるのはもちろん、友人を利用したり逆に疎遠にさせて孤立させたり」
「……誰から聞いたんですか?」
「休み時間に、1年から2年生の時クラスメートだった人たちに。とにかく放課後まで時間がなかったから、コウちゃんやタカヤにも協力してもらった。ああ、二人には最低限の事情しか話してないよ。あくまで菊池ナオトについての悪い噂についての聞き込み……ミズキの依頼ってだけで動いてる。そこは俺が保証するよ」
「そう、ですか。今日、私に菊池くんが接近したのも、裏があると?」
「ええっと、例えば……その」
「……目当ての女子のため同じグループ内のユッコに近付き、彼女にして何でも命令を聞くくらい依存させた後、本命の弱みに付け込んで無理矢理。ってところね」
「……っ」
「ユッコに近付いたのは好意ではなく、打算からの行動なの」
それが真実、と言わんばかりの断言。
何度か見たミズキ様のご活躍、その推理の通りブレることのない自信にあふれています。できればただのモブとして遠巻きに拝見できたらどんなに良かったでしょう。実際に当事者として関わっている以上、叶わぬ願いだ。
私はこれから、彼女の考えを否定しないといけないのですから。
「お話は理解できました。たしかに菊池くんは自分の都合のいいようにクラスをコントロールする所はあったように思えます。でも、集めた情報を菊池くん本人に確認しましたか? してないですよね? だったら分からないじゃないですか」
「何か決定的な証拠とかは無いよ? でも実際に聞いた人たちがさ……」
「分かるはずないッ!」
「ユッコ……」
「勝手なことしないで、いつもいつも! ミズキは何でも先に知った風に話すけどさぁ。分からないじゃないですか人の気持ちなんて。一人で決めつけんなッ!」
「……」
「だいたい、と、友だちなら……こういうときは応援するんじゃないんですか!? なのに何よ、出て来る言葉は、菊池くんの悪口ばっかり……!」
私は意地になっている。友だち、という単語を盾にして、筋も脈絡もない感情論だけをあろうことか【七つ星】にぶちまけている。心の奥底にしまっていた汚い部分を滲み出させた、浅ましい行為だ。
でもこの意地は張らないといけない。
「何が分かる! 私の気持ちなんか……みんなに分かるはずない……っ!」
捨てゼリフを吐いて逃げる。
階段を下りてその場から離れようとすると、サラ様とメグミ様とすれ違った。探しに来てくれた? いや、私が大きな声で叫んでたんだ。教室から近いし聞こえるか。
「ちょっと、ユッコちゃん怒らせたの?」
「二人ともどういう事よ、これ!?」
みなさんが問答してるうちに、止まることなく階段で一階まで駆け下りた。このまま走って、走って……どうしよう。学校を出ることも頭によぎったが、抵抗があった。考えているとチャイムが鳴りだす。もうすぐ午後の授業が始まる。私は……どうしたい?
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