㉘ 2年生 5月1日 ある日の昼休み
「ユッコちゃん、煮物の味付けのことなんだけど……」
「好評でしたから大きくは変えず、まずは本人の舌をなれさせてから……」
図書準備室の一件があってから、メグミ様が積極的に話しかけてくださるようになりました。休み時間や体育の時間、あとは昼休みもしきりに誘われていて、畏れ多くも【七つ星】の女性陣と食事を召し上がることに……!
メグミ様との会話の内容は、ケンタ様へのお弁当作りについての相談がかなりの割合です。私としても料理のことなら一家言あり、彼女自身も知識や経験を惜しみなく共有してくる、話していて本当にたのしい。昼休みが始まってからノンストップでおしゃべりが止まらない!
「そっか、それならバリエーションを増やせるし」
「ええ。ケンタも抵抗なく食べれるかもしれません」
「……」
「……」
ただ四人のうち半分は沈黙を守っている。
サラ様は不機嫌そうにファッション系の雑誌を読みながら耳を傾け、ミズキ様は何も意に介さず、宇宙と交信しているかのようにぼんやりした表情を向けています。
分かっていますとも。私は部外者。たまたま利害が合って招かれただけのゲスト。それだけだ。急にモブが増長して友だちのお弁当に口出ししている状況など面白くないでしょうし……だから私は線を踏み越えない。お弁当を作るのはあくまでメグミ様で、アドバイスや提案に留めているのもそのためです。
サラ様はため息をついて雑誌を机に置き、こちらの方を見据えました。
「よく飽きないね」
「そう? いくらでも話せるよ? 料理の事だし」
「あたしには同じ話にしか聞こえないけど。お菓子のことならともかく手料理じゃね……ケンタは恵まれすぎだよ。こんなかわいい女の子たちから毎日お弁当渡されてさぁ。サポート手厚すぎだっての」
「折原メグミと古賀ユウコ。家庭的なスキルにおいて二人より適役はいない」
「たしかにあいつの偏食はだいぶ良くなったけど」
ミズキ様のフォローに渋々納得する様子。
単純に不機嫌、って感じではないですねサラ様のご尊顔は。
やきもち? いえ……彼女は恥じておられるようです。ケンタ様に対して何もしていない自分を。力になりたいと思ってもできない無力さ。そんな己への苛立ちと言ったところでしょうか。う、美しすぎる……プライドの高い彼女らしいです。
「なんかさ。部活中に応援しても嬉しくないみたいだし。あたしは、それくらいしかやれないのに」
「地区予選、みんなで行くのは?」
「それも微妙っぽいんだよね。反応がイマイチっつーか。あいつにとっては通過点なのかな。インターハイとかから応援が欲しいかもだけど。意外と繊細なトコあるしさあ」
「誰が繊細だって?」
後ろから、ケンタ様が声をかけてくる。
「お前の応援はうるさすぎるぜ。正直インハイの送り出し見送るとかで十分なんだよな。あ、メグ! お弁当いつもサンキュー。俺の好みに完璧合ってるよ」
「なら良かった。今日の分もどうぞ」
「おう。俺たちもここで食べていいか?」
「ハルも……コウちゃんもっ?」
ミズキ様が珍しく食いついて振り返る。
私も思わず目を疑いました。な、【七つ星】がタカヤ様以外揃っている……!
マジで? どうして、こうなった? どうしてこうなった!?
そりゃあ元々ケンタ様のクラスですから、おかしくはない……お弁当の感想も直でもらえますし願ったり叶ったりの形ではありますが。
みんなの視線が、サラ様に注がれます。こういう何かのスタートを切るときは決まって彼女が決めるように自然となっています。気に入らないことは絶対にしないサラ様の性格をよく知っているからでしょうねえ。
「好きにしたら?」
その言葉を予め知っていたかのように、ケンタ様たちは近くの椅子や机を並べだしました。【七つ星】七つの席。ああタカヤ様がここにいたのなら、私は喜んで席を譲り教室の片隅で体育座りをしていても構いませんのに!
さりげなく端っこの席に位置を修正しようとすると、サラ様に止められた。私の席を動かすなと鋭い目で主張されている。
「距離空けんな。あんたの席はここでしょユッコ。この場所でいいの。また同じマネしたら怒るから」
お言葉ですがサラ様。心の中で言葉にしますが、サラ様。
もう怒ってるじゃないですか……っ!?
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