⑰ 2年生 8月8日 夏の海だー!?
青い海の匂い。白い波が寄せては返す音。
照り付ける真夏の陽射しをパラソルが遮って、潮風だけが肌を撫でていきます。
そして……
「サラ、いったよ!」
「せーのっ!」
少し離れた所でビーチバレーに
ハル様の打ち上げたボールを、サラ様が思いっきりスパイクして相手側へ返す。揺れてますねぇ。ばるんぶるんと二つのボールが。スポーツ系の水着にTシャツを結ばれていて、スタイル抜群の彼女にドンピシャ合ってます。
砂浜に足を取られながらも、メグミ様が飛びついて打たれたボールを拾う。砂がほっぺにつくのも構わず次のプレーに向かう姿……いい。水着もキュートな色合いに肩紐とスカートは控えめなフリル付きで、かわいらしさが惜しみなく発揮されています。続けてメグミ様が声を出した。
「タカヤお願いっ」
「まかせろ」
ああ……タカヤ様。
サラ様のブロックをわずかに抜いて、得点が入りました。最初こそ大差で負けていましたが、だんだんとサラ&ハル
タカヤ様とハル様は中央のネットで向き合う。
サーブの前にサラ様の怒号が飛ぶ。
「ハルっ! いま何点差!?」
「ええっと……」
「16対19だ。25点先取だったな?」
「なんか点差がじわじわ詰まってるねぇ」
「こっちはメグと息が合って来たからな。そっちはどうだ」
「ついていくのがやっとって感じ?」
「言葉通りなら楽なんだが」
「あはは……タカヤには俺の話術効かないからなあ」
ちょっとした軽口の応酬。もともと仲がいいですからねこの二人は。薄く汗をかき、歯を見せて笑ったり息を整えたり……どうしてもハル様が合わさると色気を感じてしまいます。しかし極めて健全です。やましいことなど決して無い、青春の1ページ。
そんな場面に私がいるなんて。幻術か?
しばらくボールの行方を追いながらしみじみと思う。
「実は妄想でした、的なオチは……って冷たァ!?」
思わず声が出る。
自分の肩にペットボトルのジュースが!? 横を見ると、ミズキ様がこちらをご覧になられてました。砂遊び、スイカ割りと来て、あとはそれぞれの自由時間。私もミズキ様もそこまで体力無いので日陰で休んでいましたが……無表情の中にも呆れたような気配をかすかに感じる!
「ど、どうしました!?」
「……そろそろだから」
これを持って、と言われているようで素直に受け取る。少し混乱していたが、海の方を見るとミズキ様の行動理由が分かった。
ケンタ様とコウちゃんが遠泳をされていて、もうすぐのところまで戻って来ていました。沖にある折り返しのブイを回るにしても早すぎ……往復だと2キロは余裕でありそうなのに。
現時点でリードしているのはケンタ様。しかし差は10mもありません。泳ぎの優劣は分かりませんが、スタミナに勝るケンタ様がその分先に行っている感じです。コウちゃんはすぐ後ろについて追い抜く一瞬を狙って……勝負になってます。サッカー部はおろか部活に入っていないのにもかかわらず、インターハイで優勝したケンタ様にここまで肉薄できるものなのでしょうか。すごい。
んん? ケンタ様の泳ぎのギアが上がったみたい。すぐにコウちゃんもラストスパートに入る。あと浜まで100m。ミズキ様がペットボトルとタオルをもってパラソルを出たので、私もそれに倣い波打ち際に歩き出した。
すでに足がつくところまで来ていたらしく、最後は走り合いになりました。ゴールは確か、二人のビーチサンダル付近……。ばしゃばしゃと水音を立てて、ケンタ様とコウちゃんが走って来る! ほとんど横並びでビーチサンダルを踏み抜き、減速していく。
「どっちが勝ちだ?」
「俺だよなユッコ」
「ええっと、その……同じくらいだったんですけどぉ」
どっちが先かは判別が難かしい、同着といっていいもの。
言いよどむ私の横で、ミズキ様がコウちゃんにペットボトルを渡した。
「少しの差だったけど、ケンタの勝ち」
「……ギリギリまで迫ったけどなぁ」
「惜しかったね」
「ありがとう」
コウちゃんは悔しさを表情に滲ませている。
負けず嫌いなところは子どもの頃から変わってないみたいだ。
蓋の開けたペットボトルをケンタ様に差し出すと一息で半分くらい喉に流し込み、勝者の笑みを私に向けてきた。
「お疲れ様です」
「へへ、見てたかユッコ。やったぜ!」
「すごかったです本当に」
「やられたよ。ラストスパートは意識して早くしたのか?」
「ああ。3キロも泳いで最後が短距離勝負だと分が悪いって思ってさ。余力はこっちの方が残ってたから、その分スタミナ使って差をつけたんだ」
「勝負どころの見極めでもケンタには負けたかー」
「ああいう駆け引きなら何回やっても面白いんだけどな。インハイ優勝は伊達じゃないだろ? 練習量が違うぜ」
ケンタ様はコウちゃんとレース展開を振り返りながら、タオルで顔を拭く。やっぱりスポーツをする人は好ましいですね。陰湿のかけらもなく、どこまでも爽やかだ。
コウちゃんの方がやや色白、部活とかはしてないから当たり前か。鍛えこまれた身体。今まで動いて熱がこもっている感じ……美しい。二人を見比べるだけでこっちの心臓もどくどくと加速するようです。
「それに俺にはユッコって味方がいたのさ。食事のサポートも半端ねえから」
「うえぇぇ私!?」
「確かにお弁当とか食べるモン改善されてたな。今日の夜ごはんも楽しみになって来た。古賀さんが作ってくれるんだったよね?」
「ああいえ! メグさんの調理助手的な立ち位置でして……」
そうでした。
まず私が【七つ星】と一泊二日の旅行に行っているという時点でおかしいんですが……この後はハル様の別荘に行き、みなさんと夕飯、及び就寝をともにするという夢のような神イベントが待っています。
旅行の打診があった時に一度お断りを入れて……ですがケンタ様やハル様の強い説得もあり参加に至りました。流石に『お弁当がなかったら優勝してないし海にも行けなかった』とまで言われては行かざるを得ない。
「よーし! 次は貸しボートでも持ってきて二人を沖に連れて行くか?」
「待て、そこまで体力続かないぞ俺は。ケンタがインハイで優勝したすごさってのが改めて分かったな」
「あっはっは。走りでも泳ぎでもお前とだったら喜んで勝負するぜ」
「ならビーチバレーに混ざるか。ミズキ、どうする?」
「……今日は止めとく」
「おいィ! なんでだよ!?」
「メグがもう限界。タカヤたちも熱中症になる前に休ませるべき。だから組むとしたらコウちゃん、ケンタ、優子、私の4人になってチーム決めの時点でどっちが勝つかがほぼ固まる」
「へぇ? 正直コウちゃんと俺はバレーじゃ戦力的に互角だ。ユッコも誰とでもトスで合わせるの上手かったけどな。ミズキが入る方が勝つのか?」
「それは……」
「ね、遠泳どっち勝った!?」
バレーで勝ったのか上機嫌なサラ様が走りながら聞いてきて、ミズキ様は言いかけたのを止めてケンタ様を指さす。ガッツポーズで応えるケンタ様に、戻って来たハル様たちも拍手を送った。
インターハイ出場&優勝で終えられ、ケンタ様にとっては息抜きの旅行となりましたが……楽しまれているようで何よりです。こちらとしても予選からずっと応援に行かせてもらい毎回テンションMAXでしたねえ。
「やっぱ海、来れてよかった。みんなもいるしな」
「そろそろ宿いこうか? 準備もだけど軽く掃除しないと」
「おおっ! ハルの別荘か……1年ぶりだな!」
「ケンタ? まぁたユッコを勘違いさせてない? 民宿とかでもない、ただの親戚の空き家だからね!?」
どうやらケンタ様の説明は多少の尾ヒレが付いているみたいですね。まあ、この7人がいればどんなところであっても究極のリゾートに違いありませんが。
せめて私も精一杯、料理の腕を振るうとしますか。
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