⑱ 必然の帰結
ハル様の別荘……もとい親戚の方の空き家はけっこう掃除が行き届いていました。今回私たちが泊まるということで、少し手を入れてくれたみたい、とはハル様の言。まあ多少の掃除や洗濯は必要なので、夕飯まではそれぞれ分担で働く運びとなりました。
タカヤ&ケンタ班は買い物。
サラ&ミズキ班は洗濯。
コウちゃんはハル様と掃除を担当。
たぶんミズキ様がお決めになったと思いますが、いい人選です。
例えば買い物。大量の食材が男手パワーであっという間に届いた上に、タカヤ様が適切な目利きをしてくれていました。加えて二人は行動を共にすることがあまり無かったので、こういったイベントで仲を取り持つ意味合いも兼ねていたのかも?
そしてメグミ様と自分は料理班となり、現在に至る。
トントンと包丁で食材を切り終わるのも終わると完全に音がなくなった。
「……」
「……」
人選の采配上、仕方ないのですがメグミ様とはほとんど初対面でした。借りてきた猫同士、見知らぬ家の厨房。上手くいくはずもなく……そんなふうに考えていた時期が私にもありました。
た、楽しい~っ!
フライパンでお肉を焼いていると、メグミ様が火を通す順番ごとに次の野菜を差し出してくれる。それもこれ以上ないような適切なタイミングで。時間差など皆無。逆にメグミ様が動くときに使う道具、調味料を手渡せる。分かる。分かるぞ! 調理スキルのある二人が揃うだけで明らかに違う……息が合うなんてモンじゃない。
献立作成、食材の仕込み、調理に食器の用意。
万事そんな感じ。『ハーモニー』というよりは……『味の調和』……双子か親子か、ってレベルで言葉をかわすことなく理解し合い、あっという間に全ての料理が終わってしまった。後は盛り付けて配膳を整えるだけ。
「メグさん!」
「ユッコちゃん!」
このひそやかな芸術にお互い感動していた。
短時間でこれほど打ち解けたことも。
メグミ様がゴムの髪留めでまとまった横髪をぴんと背中側に弾く。たぶん料理をされる時や普段の家での髪型なのでしょうが、自然体って感じで超好きです。
得難い充実感に一息つき、ようやく言葉がぽつりぽつりと出始める。
「すごい効率だったね。ママと二人の時よりずっと速い……」
「私は誰かと料理すること無かったので、ホントに驚いてます」
「だよね!? もっと夏の前に話せれば良かったぁ。ケンタくんのお弁当もいろいろ考えてたみたいで興味あったしさ。詐欺ってくらいの減塩、ここまで舌を騙せるやり方を通用させるなんて」
「あはは、まずはお夕飯で食べてみてください」
話ながらも料理の盛り付けはぴったりと決まっていく。メグミ様のセンスがまた可愛らしくて参考になります。今年から初参加の私たちを組ませた意味はあった。ホントどこまで見通してるんでしょうね。ミズキ様恐るべし。
「メグさんと一緒で私もここに来たの初めてで……みなさんの関係性がイマイチ分からないところがあるんですが」
「私もだよ。ええと……まずミズキちゃんとコウちゃん、ケンタくんにサラちゃんの4人が小さいときからの幼馴染なんだよね?」
「そう聞いてます」
加えて今コウちゃんたちは恋人同士である。
ケンタ様とサラ様は……違うようですが。
「それでハルくんが中学校からグループに入って誰とも仲が良いでしょ? タカヤだってその頃からハルくん知ってたみたいだし。だから私たちは高校デビューって感じなんだよね」
「ええ、まあ」
私はともかく、メグミ様には華々しいご活躍があり全生徒への覚えは良いですから。あと誰かが勝手に作った校内美少女ランキングにも5本の指に入っているようです。1位は断トツでサラ様でした。割と異存ない出来なのですが、ミズキ様だけ上位にいないのは納得できませんね。ちゃんと目が付いているんでしょうか。
それよりも私は前からずっと気になっていることがあるんです。
海で遊んでいるお姿を見て、一層モヤモヤした思いを抱えてました。
「メグさんは……その、タカヤくんとはどういった関係なんですか?」
「え? タカヤと?」
「はい。気兼ねないといいますか距離が近いというか」
「当たり前だよ。だって子どもの頃からの付き合いなんだもん」
「お、お付き合い……!?」
「家が近所で、家族ぐるみで仲よくてさ。特にお姉さんとよく遊んだっけ。今はもう大人で働いているからあんまり会えないけどね。タカヤはいろいろ心配してるみたいだけど、ちょっと神経質すぎるところがあるしなぁ。たいていのことは何とかなるっていつも言ってるのに……ってユッコちゃん? 大丈夫?」
なんだか全身の力が抜けたようだ。ふ、蓋を開けて見ればそういうことだったのか。色々と考え込んでいた自分がバカみたいじゃん。
「問題ありません。さぁ、後はテーブルに並べるだけです」
「ならごはんって言って来るね!」
メグミ様がみんなのいる二階に上がられたあと、私は長いため息をついた。
この感情は安堵や安心、なのでしょうね。
タカヤ様のことを考えるだけで胸が熱くなるし、サラ様たちを始めとする女友達と仲良くしているのを見ていると心がざわざわする。そんな資格なんて無い……畏れ多くも憧れに近付いたあげく関係を作ってしまったばかりに、知れば知るほどこの感情は高まる一方だ。
今日タカヤ様の近くで喋ったり遊んだりして、改めて分かった。
彼を想う気持ちは……もう何があったってゼロの方へは向かわない。
* *
二階で女性陣と共にゆっくり過ごし……窓の外を見る。山に囲まれているからか陽が沈むのがかなり早く感じる。熱もこもらず涼しいのも過ごしやすくて良き。
夕飯は大好評のまま終わりました。
さすがメグミ様とのコラボレーションと言ったところですねえ。私の技巧に関しても褒めていただき恐悦至極……塩分を削れる極限まで薄くした味付け、当のケンタ様だけは怪訝な顔をしていましたが。
廊下からトントンと階段の音がしてサラ様が部屋に入られました。何やら色のついた紙箱を抱えています。
「サラちゃん、それは?」
「くじ引きの箱。去年のお祭りで使ってたらしいんだけど。野郎たちが今夜のイベント用に持ってけって」
「……今年もやるの?」
「まぁ新メンバーもいるし良いんじゃない? とりあえずさ、一枚引いてよ。まずは男女ペアを決めるから。あ、中を見るのは全員取った後だからね?」
説明もそこそこにサラ様がミズキ様に催促してくじを引かせた。続いてメグミ様が箱の中に手を入れる。折られた紙切れがちらっと見えた。つまりはお手製、ペア決めということは私たち人数分。誰とペアになって何をしても絶対に楽しいのでしょうが、もしタカヤ様と一緒になれたら……!
こ、こういう時こそ未来予知の真価を発揮するチャンス?
お願いします私の未知なるパワー。指先に掴む結果をお示しくださいッ!
念じながら箱の中を探ったが特に頭の中には何も浮かばなかった。
ば、バカな。結果が大きく変わるくじ引きとかほど、未来視って発動するモンじゃないの!? 意識してるからか、それとも邪念が込められているから? あるいはタカヤ様の名前が明記してあるくじは……すでに引かれていて箱の中に無い?
サラ様が不機嫌そうに眉をひそめる。
未だに私の事を認められていないというか、塩対応な態度を旅行中でも取り続けています。いっぺんも愛想を振りまかないその性格。本当に誇り高い御方です。
ただ睨まれると怖い。
「ガサゴソしてないで早く取ってよ。あたしも引くんだから」
「あ、はい……ではこれを」
「よし。まず説明するね? これからみんなで肝試しやるから。裏路地を少し行くと山道があるんだけど、そこを歩いて回るってワケ。明かりは全然ないし結構怖いと思うよ? じゃあペア決めの紙、開けてみて?」
サラ様を含め、みんな引いた紙を広げる。
そこには私と一緒に行く人の名前が、黒ペンで小さく書いてあった。
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