㉒未来予知に目覚めたので告白はしません!
「あなたのことが好きです」
「……」
はぁ……タカヤ様。その眼鏡を直すお姿もカッコいいですねぇ。
ん? タカヤ様? い、いま私は何て言った!?
れ、れれれ冷静になれ。
学校の廊下。水飲み場。春休み。教室であいつらが割ったガラスで指を切って……血が止まらず途方に暮れているところにタカヤ様が声をかけてくださった。手当をしてくれた上にかわいいキャラクターの絆創膏まで頂くという僥倖。ここまではいい。だが、告白とはどういうこと!? ありえないでしょ!?
せっかく頭の中の予知のような妄想映像が、恋心が暴走したらどうなるかを教えてくれたというのに! ああバカバカバカ古賀優子は本当にバカな子!
【ケガの処置をしてくださり、ありがとうございます】それだけだ。それ以上に伝えることはなかったはずだろ!? い、言っちゃった。秘めていた想いを。10秒前に口から出しかけた言葉を必死に飲み込み、興奮してた恋の感情とかその流れ、勢いとかはカンペキに押し留めた。はずなのに……なんで?
まるで誰かが私の背中を押したような。
頭の中では言うまいと決意したのに、深層心理がプッシュしたのか?
私自身が私を衝き動かした? 教えて神さま……!
「おい」
「は、はいぃぃ」
「勘違いさせたかもしれないが。助けたのも通りがかったのも偶然だ」
ほらァ推しの迷惑考えないからッ! 絶対困るのに決まってる。助けない方がマシだったって思われたらどーすんのッ!? 気まぐれを起こして良かったな、とか少しでも感じてもらえればそれで良かったのに! ろ、露骨に嫌な顔こそされていませんが……あれ?
未来予知としか思えない細微な妄想では、タカヤ様はもっと迷惑そうな顔をしていた。嫌悪というか、自分に害なすものを見る目。今はどことなく私の様子を伺っている、って感じです。
と、とりあえず勘違いされている部分だけは否定しよう。勇み足で踏み出してしまった結果、嫌われてもいい。無視されてもいい。でも、正しく伝わっていないのはだめだ。大好きな人にこの想いを誤解されるのは……それだけは絶対に嫌なんだ。
今この瞬間だけでじゃない。タカヤ様を想っていた時間はもっと膨大で……悩んだり葛藤したり抑えつけてもどんどん大きくなって。好きになった瞬間にそのまま伝えたとか、そんなモンじゃない!
「いま助けてくれたからじゃありません。ずっと前から……っ」
「……」
「毎日、あなたに一目会えることを楽しみにしているんです。校庭で活躍している姿、教室で本を読んでいる佇まい、廊下ですれ違う瞬間……上手くいかなかったり沈んでる私の気持ちは軽くなる。今回だけじゃなくてその度に、数えきれないくらい私は助けてもらっています」
嫌なことがあっても、贈り物のようないいことや幸運が踏み出した先で見つけられる。だからそのために前を向いて生きる。それが短い人生で得た哲学。
私にとって贈り物とは、幸運とはタカヤ様のことだった。生きるために必要なエネルギー。負の感情を吹き飛ばすほど強い気持ち。
「友だちの髪とか顔色、少しでも変化があれば気が付いて声をかけていますよね。言葉は厳しかったりしますが周りの様子にいつも心を配っています。そんな優しいタカヤさんが……好きなんです」
「そうか」
タカヤ様は少し考えてるようにこちらを見ている。
表情は変わらない。いつもの厳しい顔。
「ありがとう。……悪い気はしない。それで、俺にどうされたいんだ? はっきりした答えを期待してるのか」
「いえ、いえぃえいえ! 私としては伝わっただけで十分ですハイ!」
「本当だな?」
「はい」
「しかし勇気を出した行い……中途半端にはできない。返事はするが、そうだな。しばらく保留してもいいか?」
「ほ、保留?」
「真剣に考えたいんだ。正直いまは余裕がない。解決すべき問題を俺は抱えている。せめて糸口が見つかるまでは集中させてほしい。どうしても今すぐっていうのなら……」
「待ちます! いつまでも! 十年一日のごとくお待ちしておりますとも!」
「そうか」
私の食い気味の勢いにタカヤ様は苦笑されている。
そして視線を落とされ、私の人差し指を見た。
「まずはケガを治すことに専念しろ。適切な手当てとは呼べない。病院か、せめて応急手当の心得がある人に……」
「貰った絆創膏つかいますし、家には救護処置の本あります!」
「平気だな? じゃあまた」
「はい。また学校で」
タカヤ様は廊下を引き返し、向こうに向かわれました。
職員室に割れたガラスや血だまりのことを伝えたかったのですが、彼についていく形は気まずい……とりあえず私の血だけは掃除しておきましょうか。教室が滅茶苦茶になっているのはあいつらの仕業ですが、私が汚した箇所を誰かにお任せするのもアレですからねえ。
人差し指の切り傷がずきずき痛む。
しばらく料理と洗い物は……いや、ゴム手袋すればいけるかな?
そんなことを考えながら、教室に向かうのでした。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます