桐子〜結局何も得られなかった
バイクで走る 先輩から譲られた直管の500ss
ウチはヤンキーにも カミナリにもなれなかったけど
今なら翡翠という名前にも 負けてないよな?ヒー坊…尋也
『人殺しは駄目だから』 ウチは最初からそんな度胸ねぇよ
それに それはお前が言ったんだよ チーコ…いや、伊世
カルマルマなら知ってるよ 1度だけ行ったから
お前の夢は叶ったかなって 髪色変えて 変装してな
お前の夢の場所を ウチと尋也が帰る筈だった場所を
お前が汚すなら止めるだけさ それが尋也の願いだから
眼の前にはクラブのドア 突き破る
VIPルームはすぐ奥だ 全てをマッハで突き破りカミナリになる
あぁチーコ 久しぶり 相変わらずだな
アレが尋也の彼女か? 聞いた通りだ 子供だな
しかしまァ チーコよぉ
ウチをボコボコにした時は自分にキレていて
ウチの目を見ずにボコボコにしたな
キレてると相手を見ないクセ ウチなんか比較にならない狂犬のクセに
よくもここまで成功したもんだ
昔のはウチの我儘だ だから心が折れた
泣いて 漏らして 赦しを請うて 土下座した
だけど今は違う 全速力からバイクを飛び降り
マッハ カミナリの速度で ウチはチーコに飛び蹴りをした
お互いの数メートル吹っ飛んで壁に激突
眼の前にはすぐ立ち上がるチーコ 流石だな
尋也、見ているか? 今からお前の葬式やるよ
やってやるよ なぁ チーコ
『ミドリぃ!?ミドリイイイイイイ!!!』
『久しぶりだなぁアアアア!チーコおお!!』
――――――――――――――――――――――
駄目な私は都合良く考える…もしかしたらって甘える
伊世さんは知らないかもしれない、ただ、フラレた私が騙されて、売られただけと思うかも知れない。
だって、ずっと会ってないから。
言い訳は…沢山ある。記憶から消えている部分もある。病気のふり、嘘を嘘で積み重ねて…
いくらでも…いくらでも…
待ち合わせの場所へ行く。逃げたらどうなるか、他の事務所の女が証明した。
事務所に連れ戻され 顔が膨れ上がり骨は折れ 親まで巻き込んで 家族全員で借金を背負う
自分の罪で家族から友達まで裁かれる
親と疎遠の子は…消えた。分からないけど、見なくなった。どうなったかなんて想像もしたくない。
だから独りで…行くしかない 甘えられる程、親子をしてないから。私は母に嫌われているから…絶対に見捨てられる。
パーカーのフードを深く被りマスクをしてクラブに入った。
伊世さんに一応見つからないように…
VIPルームを探す…そこには女の子?が1人でいた。
ゴシックロリータ風の化粧と洋服、アダルト業界の人って感じはしないし、そもそも若過ぎる…。
『君が桐子ちゃんかぁ…なかなかの上玉じゃん!貸しがあるとはいえ末端で三百万は安かったかなー?まぁ座りなよぉ?』
何の話?ただ言葉から分かる…私に値段が付けられ、売られた。
この人は見た目より年齢が上で、明らかに異質な人だった。
私なんて元々、ただの大学生。高校までは地味な女だった。
その私が何故こんな…ソファに小さくなって座ると【ダァンッ】と、突然ドアが勢いよく開いた。
「メイ…いい加減にしろよ…勝手に人の売り買いはやるなって言ってんだろ?」
『お兄ちゃんには関係無いじゃん?私の事業は派遣業だから?口出ししないで?』
後ろから山のような男が入ってきた。
余りの怖さに少し涙が出た…そして男は正面のソファにドカッと座ると、まるで人殺しのような目で私の目を見ながら話す。
「女ぁ…お前、自分がどんな状況か分かってるか?」
私は震えた口で必死に探す…
「だ、騙されて!サインして!それで…こんな事に!私は悪くないです!何もしてないのに!」
私の目を見ながらタバコに火を点ける男。
その目は何処かで哀れみがあった。
『お兄ちゃん、駄目だよ?私の交友関係もあるんだから?邪魔しないで?余計な事しないで?』
もしかしたらだけど…この怖い男の人は助けてくれるかも知れない…この人1人に何かするぐらい別に何でもない!
「何でもします!貴方の為に何でもするから助けた下さい!私は騙されただけなんです!」
私は声を振り絞って助けを望む。
涙を流しながら必死に…大学で培った演技力、なるべく哀れな雰囲気で…
「お前は何も悪くないって本当か?人を騙した事は?恨みを買うような事は?嘘は後で分かるぞ、最悪の形でな」
煙を出しながら、また憐れみのある目で私を見ていた…この人だ、この人さえ…
「本当です!私は何も…『へぇ、悪くない…か』
口を動かしていて気付かなかった顔の真横の存在
『やぁ、人殺しの桐子…カルマルマへようこそ』
私の顔の横に…見た事のある顔…憧れて、手を差し伸べてくれた人…
『土橋ぃ…これは私が買ったんだ…口出ししないでくれるか?なぁメイ?』
私の顔の横で…腕を私の肩に乗せ…私と同じ方向を見て…メイという人とツチハシという人と話している…伊世さん…だ…
『そうだよお兄ちゃん!私が頑張って手を回して売買したんだから!口出ししないでよ!約束は守れって言ったのお兄ちゃんじゃん!』
「約束事の話じゃねぇよ、人身売買はやめろって言ってんだよ…ここをどこだと思ってんだ、まだ間に合う、金は何とかする、だからやめろ、今すぐに。そこのビビってる女、ここから消えろ」
『何、勝手に仕切ってんだ?ここをどこだと思ってんだはこっちの台詞だ。まァ良いんだよ、御託はよ。こんな女お前等にとっちゃどうでも良いだろが…死んだ弟の為に復讐すんのはお前とは関係無いだろ?』
死んだ弟?死んだ?尋也君…死んだ?
何で?重体って…死んだって言ってないよ?
あの後?何で?
部屋のガラス越しに私の目を見て伊世さんが…
『何、驚いた顔してんの?この人殺しが。勝手に死んだとでも言いてぇのか?だったら死なない様にも出来たよなぁ?お前の顔見てると思い出すわ、ひろ…アイツの…最後…グチャグチャになっ…カァッ…ギリリィ』
ガラス越しに見る伊世さんの顔が怒りと悲しみと憎悪に満ちていた。
歯を食いしばって…まるで我慢してるみたいに…え?
何かを全身にかけられた…この臭い…油!?ガソリン!?
「や、やめ、いしぇさ…やめ…おねが…」
私は身体を小さくして震える事しか出来なかった。気付けば漏らしていた…怖い…怖い…
『…ずぅっと考えてたよ。尋也の事、悪意があって裏切ってたなら同じ所から落とそうと。男にほだされたなら輪姦そうと、そして…もし後悔してるなら燃やそうって…罪悪感…罪なら償わないとな…』
『キヒヒヒ、伊世、やっちまえぇ(笑)三百万の火葬だ!』
「おい!お前等いい加減にし【パパパパン!パパパパン!】
突如、巨大な連続する破裂音が鳴ったと思ったら伊世さんが横から突然消えた。
同時にバイクらしきものがVIPルームのガラスを割って出ていった。
大きな人影が宙を飛ぶ、伊世さんは蹴り飛ばされたようでVIPルームの窓ガラスを割り、外に飛び出していた。
「イテテテ、けどまァ、ヒー坊の痛みはこんなもんじゃねぇよなぁ…んん?アハハ、お揃いですか?いや、ちょっとチーコに用事があるだけなんで…アハハ…」
頭から血を流す、緑と金の斑色をしたショートカットの女性。合っていないお花のハンカチを口に巻くギラついた目をしている。
時代錯誤の不良が着る様な特攻服が外が雨なのか濡れていた…背中に【輝夜姫】書いてある。
助かったのか…それとも…
「そこのお前の…桐子か?」
「は、はい!」
「ヒー坊…尋也から伝言だ。怒ってないってよ、芸能人、頑張れって、そんな感じだった」
「え?ひ、尋也君は無事なんですか!?」
「いや、死んだよ。もうあっちにいる」
上を指さして少し微笑む特攻服の人。
死んでるの?怒ってないって…全部知ってるの?
何の話か分からなかった、聞きたい…けど…
『ミドリぃ!?ミドリイイイイイイ!!!』
『久しぶりだなぁ!?チーコおお!!』
特攻服の人と伊世さんが殴り合い始めた。
女同士の喧嘩には見えない、本気で殺し合う様な喧嘩…
『何だぁ…伊世の処刑が見れないじゃん…なんだったら私が私刑にしちゃおうかな?だってこの女、クズ何だもん』
「やめろメイ、もうそういうのはやめろって」
『だってこの女、ウチの兵隊にちょっと良くされただけでホイホイと男裏切ってついて行ったからね。伊世怒るかなぁ?伊世とは叛徒時代からの…』
「メイッ!いい加減にしろ!黙れ…おい、女!消えろ今すぐに外出ろ!早く!」
「ヒ、ヒイ…」
出ろと言われても腰を抜かしていた私は動けなかった。
何かに巻き込まれているのは分かる、けど逃げられない。動けない…
『ミドリイイイイイイ!邪魔すんなぁぁ!その女だけは殺す!燃やしてやる!』
『やらせるかよ!約束したんだ!尋也となぁあ!』
何か言い合いながら殴り合う、尋也君の名前が出ながら殴り合う。
クラブからは誰も居なくなっていた。
正確には居なくなっているように見えただけだった。
『メイ…言いましたね…叛徒…その名を…』
私からは見える…今度はメイという人の後ろからまるでずっとそこにいたかのように、着物の女の人が現れた。
その後ろに数人の人影…
『ち、千代…さん?何で?嘘でしょ?おかしいでしょ?千代さん、おかしいでしょ?アタシ関係ないっしょ?お兄ちゃん何か言ってよ?まさかお兄ちゃんが…』
『私のシマで人身売買…万死に値する…そう教えた筈だが?』
「裏切っちゃいねぇよ、ずっとマークされてたんだよ…でも何とか出来ないかって…大事な妹だからな…でもお前は変わらなかった」
『ま、まま、待ってよ?お兄ちゃん?何で?ねぇ!何で?』
誰も居ないと思ったクラブに更に人影が増える…雰囲気がクラブの…客と違う人達…
明らかにこの場所は地獄に変わった…
私は思考が停止した…多分、
周りには血塗れで殴り合う伊世さんと特攻服の人。
先程まで私を売ろうとしていたメイという人が、着物を着た女性に刃物を首に当てられている事。
ただ、謝り続けている山のような男の人。
そして明らかに一般人ではない人にその場を囲まれている事。
分かる事は…臭った事は無いけど、この場所から死臭がする。人が死ぬ臭い。怖い…
尋也君は死んじゃったんだ…私のせいで死んじゃったんだ。
尋也君も怖かったかな…マコト君だっけ?あの人が言ってたな…
私達の行ってた学校から尋也君が飛び降りたって。
仕事中にいきなり来てそれだけ言って消えたからおかしくなったとおもったけど…本当だったんだなぁ…
『もう良いや?お兄ちゃんも、千代も?全員死ねや!』
「グエッ!?」
目の前のメイという人の手から突然、何かが転げ落ちた。
山のような男の人に突然掴んで投げられた。
爆発…火…VIPルームの外…視界に映るのは…燃えている私の手だった。
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