第15話 ニートになる2
支店にいる人事を委ねる管理職はどうも頼りがない。現場で困っている声よりもその上にいる立場の言葉に耳を傾け、事実とは違った解決策をいつも提示してきた。見慣れたその顔は業務上の穏やかさを作っていたのが内心情けなく感じた。何故なら彼もまた元は私たちと同じ現場の人間であったからである。仕事で人と接するならいっその事無表情でいてくれた方がありがたい。
メールを見たY課長はき開口一言」「どうしたの急に。」と言ってきた。この人にとっては急な出来事だったのだ。
「もしかして千葉に行くこと?」と言ってきたので一応それはやんわりと否定した。そしてあくまで下手に出て「これからのことを考えると実力不足だから、ついていけません。」と答えた。課長は今まで何人も退職を伝える人間を見てきており、その経験から一度人が決めたことは覆らないことを知っている。そもそも何度か相談したがその都度問題は一回も解決されなかった。その場しのぎの解決策しか出せず、すぐ再発していた。
その上彼らがやる残業といえば資料のちょっとしたゴロや語彙の訂正しかないのだ。自分からは動かないように教育されているのだ。そんな人たちにいったい何ができるのか。
予想通りというか「どこに行っても同じだよ。」や「自分にも責任はあるんじゃないのか。」といった言葉が会話中に出てきた。テンプレ通りだなと内心感心しつつ、事があっさり済んだことに安堵とともに驚いた。それからまるで負け惜しみのように「あと数年待てば順当に昇進して管理職になれたんだよ。」と付け加えられてイラついたのを覚えている。
せっかく総合職に就けたのに、その将来性に希望や魅力を感じられなくなったのが原因だということをわかっていない様子だ。肩書きも大事だが、今は個人を評価してもらいたい。私はずっとそう思っている。
面白かったのは「千葉への転勤は前から決まっていたこと。」だというのを何度も念押しされた事だ。直近で決定したわけでもないし、ましてや厄介払いというわけではないことを強調したいらしい。
転勤だけが原因ではないのだ。会社そのものに不信感が芽生え、どんどん大きくなっていったのだ。前部署の係長が言っていた「どんな事柄も誠実性に欠けていれば耳を傾けてもらえなくなる。」まさしくその通りであり、そっくりそのまま言葉が返っていったのだ。話し合いの後、転居先を探す話は自然と消えた。退職の話は千葉支店から広がるだろう。
しかしこれでよかった。少なくとも長い間見えないゴールに向かって歩き続けた道に、ようやく終止符が打たれたのだ。暗闇の中から扉の光が差し込むように、周囲が明るく見えた。問題は次の働き口を探す事である。タイムリミットはもう直ぐだが、焦る気持ちにはならなかった。人生の夏休み、いいじゃないか。早くハローワークに駆け込もう。
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