第7話 一つ400円の昼飯
現場飯に憧れを持つ人はいるだろうか。安い、多い、美味いの三拍子揃ったコスパの良い昼飯である。たんまりの炭水化物と他一品加えて丼にした格安の弁当を頬張りながら私はよく都内にオフィスを構えるビジネスマン達は何を食べるのか想像していた。モッサモッサと油っぽい濃い味付けの青椒肉絲を噛み締めながら「ハンチョウ大槻」の立ち食い蕎麦屋を思い出す。小さな幸せを大きくさせて一時を楽しむのだろうか。それとも1000円ランチをインスタグラムに上げるのだろうか。1000円など到底無理である。昼飯2.5食分である。
牛丼特盛ですら考えられない生活なのだ。
やっぱり一部上場は違うんだろうなあ、と思いながら自分も上場企業にいることを思い出す。
なんなんだこの差は。これがブルーとホワイトの差か。などと思いながら動画を調べ出して、みのもんたの「愛の貧乏脱出大作戦」を見出した。うまそうな飯を1から教わりながら人が挫折したり成功したりするシーンを肴に残りの白米をタライあげる。
私はよく酒か飯かで夕食を決めた。日高屋の大盛りを頼むか、それとも一杯呑むか。大盛りを頼んだらお酒など飲めない。ならば腹の減りを犠牲にして五臓六腑を満足させよう。
大丈夫。これはダイエットだ。
金がない時はクラッカーとホールトマトをよく食べた。申し訳程度の野菜はなんとイタリア産の缶詰である。つまりはイタ飯だ。クラッカーは安かった全粒粉のものだ。おしゃれで意識の高いものだ。海の風を嗅ぎ、塩味を感じながら食べる夕食は惨めながらも将来への期待を感じさせた。
将来はかき揚げを乗せたかけそばを食べれる仕事をしよう。社会の根幹を支える人間に囲まれながら、自分も彼らと肩を並べられるよう成長して堂々と立ち食いをしよう。そんな決意が心の底から湧いてきた。
クラッカーとトマトには味がしなかった。ただただトマトの果汁が喉を潤すだけで、そこだけ旨みを感じた。
ベジタリアンも楽な食事をしていないもんだと一つ賢くなった。
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