第6話 引き継ぎは計画的に

 部署異動になりデスクワーク主体の業務へと移った。ここは支店一作業従事者のストレス数値が高いことで有名だった。

会社としてはより多くの仕事を見てほしいと言う配慮があったのかもしれない。事実外国語を使用する頻度はあがり、モチベーションも少しは上がった。しかしそれでも使用頻度は月に2度ほどあるかないかと言うもので、前部署とは五十歩百歩といった具合だ。

0よりはマシになった、そう思えて嬉しかった。

しかしそんな前向きな感情もすぐに消え失せる。


 配属が一ヶ月をすぎると途端に作業量が増える。それは職場内のプロBさんが異動になり、彼が長年行ってきた作業がそのままこちらにきたからだ。もちろん全てではない。しかし仕事内容がよくわかっていない者にとっては致死量とも取れる量で、上司が考えていた育成プランもそれを機に一気に調子が狂い出した。

加えて先輩社員達の態度も変わり出して、皆距離を置くようになった。

直感だがめんどくさい作業のアドバイスを求められることを避けているように見えた。事実在籍している社員の引き継ぎは皆快く手伝ってくれる。

「ここはこうする。客先にはこう聞けばいい」ミスを犯したら「なぜミスしたのか」と指導し、分からなければつっけんどんに教育する。

しかしこの場にいない人員の引き継ぎはこうはいかなかった。

「私じゃわからないから〇〇さんに聞いてみて。」

「知らないよ。俺に聞かれても。」

全員がそう答える。やっとこさ時間ギリギリに作業を終えると今度は別の作業が待っている。こっちも誰も知らない。しかも締め切りが迫っている。そんなルーティンが日常化してきた。


 何週間か経って先輩達が私のいる前でコソコソとBさんの話をしていた。

「ああ、あの人の仕事だったのか。どうりで適当だと思った。」

「ねえ。これはちょっと社内的に危ないよね。コンプライアンス的にも。」

「俺この人のやりたくないもん。絶対ミスるから。」

「私も危ない橋は渡れないな。責任取れないよ。」

ああ、やっぱりな。特にショックはなかった。わかっていたことである。

問題は先輩社員達は皆主任、係長経験者なのだ。そんな人材が距離を置く作業、ましてや責任逃れを堂々と行う現場があることに驚いた。


 係長はこの事実を知らない。彼は私が精一杯やった結果、好ましくない結果を出したと思っている。先輩達に話を聞き、自分なりに考えて仕事をしていると思っている。

自分の意見、要望を言おうものなら敵を作るだけである。社内弱者にとって、手も足も出ない状況に追いやられていた。


だから離職者が多いのだ。気づけ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る