第6話 八ヶ崎真名理
オレたちが体育倉庫から離れるのと入れ違いに、誰かが教師を呼んだのだろう、ジャージ姿の教員が駆け寄ってきていた。教師は何が起きたのかを周りの生徒に聞いているが、オレたちはそれには加わらずに校舎へと向かう。
「で、誰の名前だったんだ?」
「八ヶ崎真名理さんです。」
やつがさきまなり?
「誰だそれ?」聞いたことのない名前にオレは首を傾げる。
「隣のクラスの女の子です。」
口許に笑みを浮かべて天ヶ瀬は答える。
「で、どうしてその名前があの『ぬすみ』から導き出せたんだ?」
「八つ裂きの人形は、言葉を『八つ先にしろ』という意味です。つまり、『ぬすみ』を一文字ずつ五十音順の八つ先に進めると『まなり』になります。多い名前ではないですし、何より八つ裂きという音が、彼女の苗字の八ヶ崎に酷似していたので、すぐに連想できました。」
なるほど。解答を聞いてみると、ただの謎々程度にしか思えない。
「でも、」靴を上履きに履き直しながら、彼女は話を続ける。「八ヶ崎真名理さんが何だというのか、そこまでは分かりません。」
「可能性の一つだけれども、」
天ヶ瀬の話を聞いていて、ひとつ思いついた仮説がある。
「『まなり』という名前が八つ裂きの人形の背中に書かれていた。これは人形がその八ヶ崎真名理だということを示しているんじゃあないか?」
つまり、あの暗号を残した人間のメッセージは、
「八ヶ崎真名理さんを人形のように八つ裂きにするということですか?」
「ああ。」
何故犯人がオレたちにそれを遠回しな暗号で示そうとしたのかは分からないが、目的の説明は付くと思う。
「確かに、状況から考えると、そう取れますけれども、」
天ヶ瀬はオレの説にあまり納得していないようで、どこか言葉尻が悪い。
「まあ、とりあえず本人に話を聞いてみよう。心当たりがあるかもしれない。」
すでに下校してしまっているかもしれないが、とりあえずオレたちは隣のクラスへ向かうために階段を昇る。多くの教室では生徒の姿はほとんど見えず、数人が残っていれば多いくらいだ。
「八ヶ崎はまだ教室にいるかな?」
「たぶん、いると思います。」
まるで確信を持っているように天ヶ瀬は頷いた。果たして、彼女は教室にいた。
「彼女が八ヶ崎真名理さんです。」
教室を覗き込み、天ヶ瀬は小声で一人席に座っている少女を教えてくれた。その顔は見覚えが合った。
「さっき、教室の扉の前でぶつかりそうになった女子だ。」
校庭に向かう際、慌てていたオレは教室から駆け出る時に女子にぶつかりそうになったのだが、それが八ヶ崎真名理だ。これは偶然なのだろうか?
判然としない思いを抱きながら、オレたちは教室に入り、八ヶ崎に声を掛ける。
「八ヶ崎だよな、」
「ええ、」不意に面識のない男子生徒に声を掛けられ、彼女は大きく目を見開く。「そうだけれども、何?」
「いま、体育倉庫で奇妙なメッセージを見つけたんだ。」
何故声を掛けるに到ったのか、推理の過程は取り除きオレは説明した。
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