最終話

 街から戻った私は窓際のソファに座り、巳錫を膝枕している。目の前には満月と街明かりが輝いている。時計は二十三時五十五分を示している。


「お姉ちゃん」

「なぁに? 」


 巳錫の頭を撫でながら答える。


「最期にだから言うけど……私、お姉ちゃんのことが好きなの。家族としてじゃなくて」

「最期に凄いカミングアウトをするねぇ」

「もう、本気なんだよ」

「分かってるよ」


 頬を膨らませてこちらを見てくる妹が可愛い件。


「真面目に答えると……私はその気持ちには応えられないかな」

「……そうだよね」

「でも、そうだなぁ……。もしも私たちが生まれ変わった時に、血が繋がってなかったら応えるかも」

「……生まれ変われるかな? 」

「信じればきっと何とかなるよ。……そうだ」


 私はポケットから、お寺のお姉さんから貰った御札を取り出す。

 ……これ、今までどこにあったんだろう。


「お姉ちゃん、それ何? 」

「これは綺麗なお姉さんから貰ったお札です」

「は? ねえそれ何処の馬の骨? お姉ちゃん若しかして浮気する気なのかな折角ワタシと出会えたのに」

「違う違う〜」


 ……そう言えば、あのお姉さんの名前を聞いた覚えがないな。


「なんか代々霊に関する仕事についてるっていうお姉さんだよ。こことは違う世界の人だから、もう会えないけど」

「なぁんだ、良かった〜。それで、その御札がどうしたの? 」

「いや、これを持っていたら何かご利益で良いこと無いかなって」

「ないでしょ」

「やっぱりそうかなぁ」


 二人で笑う。これもうすぐ出来なくなるのか……。


「……お姉ちゃん」

「眠い? 」

「うん……」

「そっか」


 もうすぐなのだ。私は巳錫の手にお札を握らせる。


「……お姉ちゃん」

「どうしたの? 」

「……大好きだよ」

「お姉ちゃんも、大好きだよ。巳錫」

「……嬉しいな」


 その瞬間に時計の長針と短針が重なり、街から大きな音が聞こえる。


「……おやすみ」


 私は笑顔の巳錫の目を閉ざし、眠りについた。










       とある街にて


「うーん……偶には公園でゆっくりするのも良いね」


 ボクーー藍 幽璃は随分と久しぶりに公園に来ていた。理由は特にない。

 公園ではたくさんの子どもが遊んでいる。その光景を見ていると、自分の幼少期を思い出す。

 ……良い思い出はあんまりないけど。


「……ん? 」


 そんなことを考えていると、何かが足に当たる。それはピンクのボールだった。


「す、すみません」

「お嬢ちゃんのかな? 」

「は、はい」


 ボールの持ち主はロングの女の子だった。歳は七つくらいか。


「メグ、ボールしっかりとってよ」

「ごめんね」


 後ろからもう一人の女の子が走って来る。短髪で活発そうな子だ。さっきの子と同い年だろう。


「……あれ? 」

「どうしたの? 」


 後から来た子がボクをジッと見てくる。


「おねーさん、ワタシとどこかで会ったことある? 」

「んー……、会ったことは無いかな」

「そっかー……。何だかおねーさんとお話ししてるとアンシンするの。メグは? 」

「さ、サヤカちゃんがいないと、こわい……」

「もー、また“ヒトミシリ”してー」

「あー、人見知りさんなんだね。なら仕方ないよ。……あっ、これボールだよ」

「あじゃます」「あ、ありがとうございます……」


 二人は一緒にボールを受け取る。その時、メグちゃんとサヤカちゃんの手が触れて、メグちゃんが顔を真っ赤にして手を離す。


「ははぁ……」

「な、なんですか……? 」


 ボクはメグちゃんにしか聞こえない様に話す。


「メグちゃん、サヤカちゃんのことが好きなんでしょ」

「な、ななななななななななな」

「おわっ、メグどしたの? 」

「な、なんでもないよサヤカちゃん。ほ、ほら行くよ」

「まってよー。おねーさん、これあげる。これがあればきっとワタシたちはまた会える、まほーのおふだだよ」


そう言って彼女が渡してきたのは、何かが手書きで書かれた紙だった。


「ありがとう。きっと、また会おうね」

「うん、こんど会った時はいっしょにあそぼう! バイバーイ」

「はーい、気をつけてねー」


 そう言ってサヤカちゃんはメグちゃんに走って追いつく。二人は手を繋いで歩いて行く。ボクはそんな二人を見送る。

 手を繋いで歩く二人を見ていると、ボクは先日会った奇妙な幽霊を思い出した。彼女が妹と再会できたとしたら、あんな感じで仲良く暮らしているのだろうか。


「……ま、考えても分からないか」


 ボクはさっき貰った紙を見る。そこにはクレヨンで漢字や模様が書かれていた。

 その模様は、我が家に代々伝わるお札のものとよく似ていた。

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