Case3 仲良し2人組
私、橋渡 當華(はしわたし とうか)には小学校時代に仲良くなった親友がいる。そんな親友と私は。
「いやー、夏休みっていいね! サークルにも入らなかったし、毎日ダラダラし放題」
「暇なら家事を手伝ってよ、茅冬」
「やー。當華がしてくれるし」
同棲している。同じ大学に入ったので、一緒に住まないかと提案されたのだ。家事ができない彼女が何故遠い大学を志望したのか分からないが、何故か進学し、偶然同じ大学だった私に話を持ちかけたのだとか。
「ところでさ、なんか夏休みに入ってから全身が痛い気がするんだよねー。なんでだろ」
「毎日毎日ゴロゴロして、体がおかしくなってるんだよ。動けっ! 」
「いやだっピ」
「……何のキャラの真似よ、それ」
……私のせいで少し引きこもり気質になっているけど。それでも不安だった大学生活が彼女のおかげで楽しかったのは事実だ。
「じゃあ今日は少し出かけましょうか。ちょっとは歩け」
「やーん、當華ちゃんってばごういーん」
「はいはい、早く準備してね」
そう言ったにも関わらずゆっくりと準備をする彼女を眺めつつ、どこに行くか考える。あんな不摂生な生活なのに、彼女の体重は1kgも変化してない。
「ねえ、久しぶりに公園でも行かない? 」
「あんな人がいっぱいな所、普通に嫌よ」
「人に会うのがこわいのかー⁉︎ 」
「……そうじゃないけど、人が多いところは嫌なの」
「じゃあさ、キャンプ行こうよ。私、良い所見つけてるんだよん」
そう言って彼女が見せて来たのは、新聞の切り抜き。そこには小さくキャンプ場の広告があった。
「あー……そこかぁ」
「あれれ? 知ってたんだ」
「夏休みに入る前に、茅冬自身から聞いたわよ」
「うん? 言ったっけ? 覚えてないにゃあ……。まあ良いや、行こうよ」
私達にキャンプの趣味はないから、当然それ用の道具もない。でも確か、このキャンプ場はレンタルがあったから問題ないだろう。
「いいよ。じゃあ長袖長ズボンも持っていくのよ」
「えー、暑いよ」
「虫に刺されるの。……抱き枕は持っていくな」
そんなこんなあって、私たちはキャンプ場についた。幸いキャンプの場所も空いていたし、道具も借りれた。寝袋は一つ持っているから、借りたのは一つ。テントも一緒でいいか、となり、食事と料理セットは持ち込んだ。
「他の人に迷惑かけちゃダメよ。ここはソロキャンパーが多いらしいし、みんな一人で静かに過ごしたいんだと思うから」
「はーい! 」
そう元気よく返事をしたにも関わらず、テントを張る手伝いをする時の動きは遅い。何でも日光が力を奪うとか。ゾンビか。
そんなこんなあって気付いた時には夕飯を準備するのにいい時間だった。
「ディナーディナー」
「サパーよ」
「ん〜? 何のことだ〜」
私はちょっとしたスープを用意している。茅冬は暇そうにし始めたので、ご飯の方を見てもらっている。流石に中学時代に出来ていたから大丈夫だろう。
「あれれ」
「どうしたの」
「なんかね〜、火を見ていたら當華を殺さないとって思うんだよ。何でだろ」
「……怖いこと言わないでよ」
「これはもしかして……私の中のカニバリズムな一面なのか⁉︎ 逃げて當華、私が正気のうちに……! 」
「アホなこと言ってないでご飯見ててよ。焦げこげになったら食べれないよ」
「それは嫌ー。見てますん」
二人で準備をしていると、ご飯を作っていたガスコンロの火が消えた。
「あれ、ガスボンベ切れちゃった。どうしよう」
「んー? 切れるのはやくない? 」
「そりゃ使いかけなんだもの」
「あれ、使ったんだ。いつ使ったの? サークル? 」
「うん。……あー、ダメだこれ。完全に切れてる」
「フェザースティックあるよ。火おこしする〜? 」
「いつの間に作ったのよ……。ちょっと施設の人にガスマッチ借りてくる。燃えやすい木の枝集めといて」
「まかせろー」
私は管理人のいる施設に歩いて向かう。少し遠い所だが、車を出すほどではない。他の人のキャンプに近付かないようにして向かうと、崖付近を通る車道に出た。ここを降りていくといいのだ。
「……ん? 」
下りきって管理人さんのいる建物まで行ったら、何か聞こえる。揉めてるのかな。
少し扉が開いていたので中を覗いてみる。
「……っ⁉︎ 」
そこにあったのは……地獄風景だった。壁と床は一面真っ赤に染まり、辺りには何か塊が転がっている。生者の気配のないはずの建物の中に、一つだけ生きた物が。
それの正体を確認した瞬間、私は走って逃げた。とにかくテントに向かって走った。だってーー
そこにいたのは、茅冬だったから。
一刻も早く戻って、見間違いだと確認したかった。親友のそんな姿は見たくなかった。
「茅冬!」
テントに戻った瞬間に叫ぶ。すると。
「んー? どったの、當華。そんな死にそうな顔して」
そこには彼女がいた。そして気付いたのだが、下にいた人物と彼女は服が違う。つまり見間違いだったのだろう。ならば。
「逃げよう、茅冬! 今、下で殺人鬼がいたんだ。早く逃げないと殺されるっ! 」
「嘘……じゃなさそうだね。當華がそんな嘘つかないもんね。うん、逃げよう」
私と彼女は揃ってテントを出る。
「み・い・つ・け・た♪當華ちゃんっ」
すぐ外にはーー茅冬が立っていた。身体中が真っ赤だ。
「……誰かな〜。私を騙るとは、いい度胸だね」
私の後ろにいた本物の茅冬が問いかける。すると、前にいる偽物の茅冬は笑い出す。
「偽物かぁ〜。まあ、そうだね。私は偽物だよ、貴方と同じでね」
「……同じってどういうこと? 」
「あれぇ、もしかして覚えてないのか。それはそれは……幸せなことだね」
偽茅冬は薄ら笑いをしながら、私の方を見てくる。
「……ああ、貴方は知っていて今の状況に甘んじているんだ。そうかぁ」
私が瞬きをした瞬間、彼女は私の後ろに立っていた。いつの間に動いたのか分からなかった。
「本当の事を教えてあげたほうがいいと思うよ。きっと……取り返しのつかない事になるからさ」
そう私にささやいた後、いつの間にか出来ていたゲートのような物に近付いていく。
「それじゃ。目的のものは回収したし、見たいものは見れたし、私は帰るね。ああ、殺した人たちは生き返るから気にしないでね」
そう言って彼女はゲートを潜った。
彼女が帰ってゲートが閉まった後、何かの波動のようなものが出た気がした。
「……行ったね」
「うん……私、下を見てくる」
「気をつけてねぇ。私はついて行かなくていい? 」
「一応、逃げれる準備だけしてて」
「はーい」
私はもう一度、坂を下って管理人さんのいるところまで行く。そこにはさっきまでの惨状が嘘のように何時も通りの光景があった。
私はさっき殺されていたはずの管理人さんからガス缶を貰い、上にあがっていた。
「……本当の事、ね」
私はガードレールから身を乗り出して、下を見る。
この何処かに、茅冬がいる。
きっかけは彼女の恋だった。ここで一緒に星を見ている時に、彼女が私に告白をしてきた。
私は考えさせて欲しいと言ったが、彼女は答えを求めて来た。私があの時に出した答えはNoだった。
すると彼女は、私と結ばれないなら、と言って……。
「取り返しのつかない事か……。そうなればいいな」
私が悪いとは思わない。でも、彼女にあの行動させたのは私だ。
あの後、テントに行ったら普通に座っていた彼女が誰なのか分からない。でも、彼女の姿をした何かに殺されるなら。
「それも良い……ね。私のこの感情は、おかしいのかな」
私は、真っ直ぐに茅冬の方へと向かった。
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