第5話xxx (ENDmarker.)

 ベッド。血の匂い。横たわっている、彼。

 止血する。

 通信端末から、助けを。


 そこで。


 夢から醒めた。


 ここは現実。わたしと彼の、いるべき場所。


 いつのまにか、眠ってしまったようだった。

 彼のベッドの隣。彼は目覚めない。血を失い過ぎたらしい。あのときの、夢を。見ていた。

 わたしの名前を呼ぶ、彼は。もう、起きない。わかっていても、こうやって。彼の隣で眠ったりする。


 通信。

 任務だった。


「了解」


 彼が、眠りについて。そしてわたしは、彼の任務を引き継いだ。


 でも。


 この任務の先に。彼はいない。物理的な失血は、どうしようもなかった。

 わたしに会うために。わたしを救うために。彼は、命を懸けた。あの、わたしと彼を隔てていた、ノートに挟む下敷きのようなものは。心臓の鼓動だった。物理的な拍動の違いが、世界の違いとして、心臓の壁を夢の中に映し込んだ。

 だから、彼は。

 わたしに会うために、心臓を刺し貫いて弁膜を破壊した。そしてわたしは彼に会って。そして、彼は。ハートブレイク。


 彼の身体は、治っている。弁膜も血も、彼自身の身体から培養したものを使って処置が完了していた。


 それでも。


 彼は、ここにいない。


 眠ったまま。


 どこにいるのだろう。


 もう、ここにはいないのか。

 悲しい予測を、頭から振り払って。


「言ってくるね」


 わたしの名前を囁いて。

 任務に向かう。


「Elikeu.」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る